※三成とギン千代
幾つもの寒気を越え、芽立つ季節を迎えることにおそらく意味があるのだろう。
美しく芽吹く春にはまだまだ程遠きことだと思っていた。
「もうすっかりと春の陽気だな。」
隣を同じ速度で歩く女がうわごとのように言葉を漏らす。麗かな風に梳かす髪は幾分か伸びたようにも見えた。
「……春は、」
口を開くのは久方ぶりのように感じたのは、この長すぎた冬の所為なのか。
「春は巣立ちの季節と云う。ギン千代、お前の往く先は見つかったのか。」
その言葉にギン千代は足をぱたりと止めた。想定内といえば想定内なのだが。
一刻遅れて足を止め振り替える先には、
「…私はこれまで決意を曲げたことはない。」
「ああ、知っている。」
吹き抜ける風に遮られることなく、閉ざすことなく。
(聞こえ良くすれば、あれを『美しい』というのか。)
眼から溢れる閃光。
「私は三成に興味がある。」
「……何が言いたいのだ。」
「いや、お前は解らぬかもしれんが、以前より魅力的になった。私はお前の生き様に興味を持ったのだ。」
揺らぐ事無く耳に届いた言葉に揺らいだのは己の方なのかもしれない。
「私は三成の傍らで天下を共に見たい。」
目がやや合って、移動させた網膜が足元を映した。土の中に沈んでいた青々とした草花が地面を覆い尽くそうとしている。気が付かぬ間に春が足元にまで。
「もう少し女々しい言葉を知らんのか。」
「なにがだ?」
春を踏む
「…いや、こちらの話だ。」
end
BGM:Anemone/L'Arc〜en〜Ciel
2009/08/08
インマイクラス