生まれてきたのは一緒で、違う場所だった。出生の秘密、存在意義…。お母さんのお腹の中から生まれた君と、無機質な機械の中で生まれた僕。ふたりが出会えばお互いでお互いを否定するようで怖かった。
心が、揺れる。
「…隣、いいか?」
少し不貞腐れたような面持ちの彼女が僕の隣の空いた場所を指差した。ひとつだけ頷く僕の姿を確認した後、彼女は何も言わず隣に腰を下ろした。
「もう大丈夫なの?」
僕の問い掛けに彼女は小さく身体を揺らした。彼女を見ると、赤く腫れた眼が目にとまった。さっきまでずっと泣いていたんだ。そう思うとそれ以上何も言えなかった。
「…お前が居てくれて、よかった。」
もう枯れはてたようなつぶれた声でひとつ呟いた。彼女を育ててくれた父親が亡くなってしまった翌日のことだった。
******
「―…カガリ。」
僕が発した声に誘われるようにゆっくり顔を向ける。哀しそうな顔をしたカガリと視線がぶつかる。
「どこかに行っちゃったのかと思った。」
海岸でひとり立ち尽くして、虚ろに海を見つめるカガリをを見つけた。その言葉を聞いて一度不思議そうな顔をのぞかせた後、苦笑いをこぼした。
「どこにもいかないよ。どこにも行かない、から。」
彼女の見つめる先には石碑。その言葉はまるでそれに言い聞かせているように見えた。何処にも行かない、何処にも行けない、彼女にはそれを置いてどこかに行くことを許されないとずっと思っているように思えた。
「もう何年になるのかな。」
カガリの隣でぽつりとつぶやく。そこにはもう何年も変わらず在り続けるものがある。そこには育ててくれた父親の名前も刻まれている。カガリはいつも何か不安や思い詰めるとき、ここに来ていつも海を眺めている。それを僕はいつも見ていたからわかる。
「…何かあったの?」
彼女の心の不穏を聞いてなんとかできることはそう多くはない。けれど何もできずに見ているだけではつらく歯痒い。所詮、僕は僕を護るための行為なのかもしれない。けれど独りで全てを背負うと決めた小さな背中を見るたびに胸が苦しくなる。傍で見守れるなら、できるなら支えたいと願う。
「キラ…、わたしは、」
「オーブの、オーブの国民の為、プラントへ行こうと思う。」
カガリのその瞳は真っすぐに僕を映して、そう言った。
彼女の願いは此処だけでは叶えることはできない。それは理解していた。
「カガリひとりで行くの?」
心配の言葉が先に立つ。それを聞いたカガリは自分だけじゃ力不足だとそう受け取ったのか、ムッとした表情を見せた。その姿は以前のようなカガリに戻ったように見えて。
「アスランも一緒に来てくれるそうだ。いいと言ったんだが、『君の立場を考えれば必要だ』と言ってな。」
「…うん、アスランらしいね。」
そんなことを言ってわらって。そして少し緊張の糸がゆるんだように、それにつられたのかカガリも小さく微笑んだ。
「…だから、さ。キラにはここに残っていてほしいんだ。」
※※※※※※※※※
わたしの代わりに世界をみてきてくれ。わたしは、ここにいるから。
僕は君と一緒にいるから。
悲しそうな君をおいていかない。
あのとき、君をおいていかない、一緒にいると決めたから。
それは駄目だ。私がお前を縛ってしまうのは。
虚勢をはるカガリ。けれど心の中でそれをうれしい、と思うカガリ。今まで離れていたぶん、君と一緒にいたい。キラの心とカガリの言葉がだぶる。
抱き合うふたり。だけど私はお前を縛りたくない。おまえは自由に翼を広げてほしい。そんな姿がすきだから。そんな言葉を頭の片隅で聞いた。その言葉の意味はまだ知り得ずに。ただ、今ある弱虫な温もりに目を閉じる。
ごめんね。わたしのこれ(感情)はキラを縛り付けてしまう。
だけとどこにいてもそれはつながってると思えるから。そういってキラの胸板を人差し指で付いた。
だから大丈夫。
いってらっしゃい。
「おまえが、いてくれてよかった」
天が墜ちる。
慣れない公務に、国民のこと、あちこちで続く紛争と中立国の立場。父親の残像。その肩に積み重なるものは一体どれほどの、