「…またあの人は…。」
溜め息が煙草の煙と一緒に吐き出た。わかってはいたがなんて様だ。
これが本当に新撰組の上に立つ人物なのか。隊の士気が乱れるからやめろと言っているのに。今日もひとりの女性に対するストーカー行為を繰り返し、挙げ句の果てにはぶちのめされている。
「貴方にはその姿がお似合いね。近藤さん。」
それを見下ろしてにこにこと面白そうに笑う女。なんとも逆転した二人。女の後ろからひょっこり顔を出したチャイナ娘はその様子をただじっと見ていた。そんな状況に出くわした俺と。
「さ、行きましょう。神楽ちゃん。ゴリラさんが地球に土下座して謝っているところを邪魔したら悪いわ。」
毒舌を吐き捨て、哀れさを微塵も感じさせずその場を去る。お妙さーん、と情けない声は小さくこだました。
「…可哀相アルな。」
「もしこのまま、姐御がオマエに振り向かなかったら、仕方ないから私が相手してやるネ。」
チャイナ娘が近藤さんに向かい、しゃがみ込んで哀れみの言葉をかけた。小さい少女に同情とは。その現実にまた溜め息が出てきた。
「じゃあな。」
そう言って立ち去る少女。それをいつまでも固まったままで微動だにしない近藤さん。ひどくショックを受けたのかもしれない。
「…近藤さん、その、」
気にするな。そう言おうとしたそのとき、振り向いた近藤さんと目が合った。その目は少し潤んでいるようだった。その理由はすぐに理解した。
「…トシ、」
どうしよう、グッときた。
まるでそう言いたげに少しはにかんで見せ、親指をたてていた。
「……近藤さん、それ以上はやめてくれ。」
女性のストーカーに、ロリコン。これ以上失態を重ねてほしくないとただ願うばかりだった。
愛がゆらぐ
end
2015/05/01〜2018/06/21