(はあ、寒い。)
かじかんだ手がじんじんする。痛みと麻痺した感覚が徐々に脳内を占めるようになってきた。こうなってしまうといよいよ後悔が先にたってしまう。
「やっぱり銀ちゃん一人で行けばよかったアル。」
「お前の肉まんの買い物だろうが。俺はそのついでにジャンプを買いに行くだけだ。」
そんなの言い訳だ。そう言ったら見上げた顔が少し笑っていたような気がした。
もうすぐ春が近いというのに外は寒くて今にも雪が降り出しそうで、お気に入りの赤いマフラーをぐるぐる首に巻いてきたけれど、手袋も要るなあとかじかんだ手を見て思った。
(今度銀ちゃんに買ってもらおう。)
明るい笑い声が聞こえて視界を前に戻すと、前から若いカップルが歩いてくる。仲良さそうに手なんか繋いじゃって。いつもなら邪険にするのだけれど、その時は少しだけいいなと思えた。こんなに寒いのに、何故だか頬をピンク色に染めて暖かそうで。
「あ、雪だ。」
銀ちゃんが見上げていた空からひらひらと雪がちらついていた。3月の雪はなぜだか今年中で一番肌寒いような錯覚を起こす。見上げた雪空に、白い息が昇って溶けていく。ああ、寒い。
「…手。」
「え?」
「手、貸せよ。」
そういって銀ちゃんは手を差し出した。ぶっきらぼうなその行為は銀ちゃんらしいなあと、ちょっとにやけてしまった。
「…気持ち悪いアル。」
「あそ。じゃあもう絶対手なんか貸してやんねぇよ。」
そう言い合いながらも、差し出す手。それを掴む手。
そのやりとりが照れ隠しであって、それが精一杯の心遣いなんだってことも、たぶん二人は知っていた。
(……冷たい。)
大きな骨張った手は私の手と同じくらい冷えていて。暖かさを期待していた私は少しがっかりしたけれど、ちょっとずつ暖かくなっていく掌の感覚が心地よかった。
「明日には春らしくなるんだと。」
結野アナが言ってた。と銀ちゃんは空を仰いで言った。
雪降る春
じゃあもう手袋は要らないか。繋いだ手を見てそう思った。
end
2012/03/13〜2015/04/30