雷光と雷鳴


「兄妹の壁を壊してみる?」
「やだよ、」
「…酷い子だね。」
「…知ってる。」

雷光の腕の中で、凍える猫のように小さく丸くなった。ゆったりと流れる時間の中にいるみたい。懐かしい雷光の薫りが鼻を包んだ。

「しかし、この状況で何もいないというのは惜しい。」
「じゃあ離せばいいじゃん。」
「そんな統べは持ち合わせていないよ。」

頬をなぞる雷光の温かい手のひらにぶるっ、と鳥肌が立つ。どうしてこんなに哀しいのか。どうしてこんなに息苦しいのか。

「怖いのかい?」
「そんなわけない、」
「隠すのはおやめよ。」
「…強がりだよ。」

本当は私が一番望んでいる。


「こっちを御覧、」

言われるがままゆっくり顔を上げると、なんと穏やかな。やさしいほほ笑みを雷光がくれた。その顔だけで泣きそうになる。

「ずるい、ずるいよ。」
「今更知った事ではないだろう。」

ゆっくり近づく綺麗な顔に罪悪感を感じ目を閉じた。血のつながりを断ち切りたいと願ったのは私。その気持ちを知ってか知らずかそれを言葉にしたのは私ではない、雷光だ。そしてその手を怯えながら掴んだのは私。

あぁ、なんだ私が一番ひどいじゃないか。

「ねぇ、どうしたら兄妹の壁越えられると思う?」

突発的に発した言葉に雷光は少し驚いた様子で、瞬きをする事を忘れたようにしていたのに。しばらくするといつものように、私に向けてくれる顔が。
(まるで泣いているようだ、)

二人を悲しめている真実は私にも、もちろん雷光にもあって。だけど彼が告げた言葉を否定せず受け入れる私もひどい。

「そうだね、例えば一晩一緒に過ごしてみるのは、」
「変態。」
「それも今更だね、」
「…知ってたよ。」

はじめから知っていた。


散る花の如く
(そして墜ちる場所も、)



end
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