一護と織姫
空の茜色に世界が染まって景色も匂いも少し物寂しい。窓の外に浮かぶ橙の光は部屋の薄暗さを照らし出せずに一筋の線を引き、スクリーンのように部屋に映し出すだけ。もうすぐ日が暮れる。
「もし、私が、」
暫らくの静寂を破ってやっと絞りだした言葉。黒崎くんは何も聞かずに耳を貸してくれた。瞳は閉じて静かに立てる寝息から意識はないのだろうけど。
(これが、最後。)
伝える言葉は山ほどある。今までの楽しかった出来事。暖かい時間や一緒に戦場を駆けた瞬間。愛しい時間。
普段、恥ずかしくて言えない言葉だって今なら言える。
「もし私が居なくなったら。」
なのに出てきた言葉は、罪の在処を求めるような。
(こんな言葉、卑怯‥。)
分かっていても、言葉を求めてしまう。
「私、が‥。」
震える肩がまだ自分は弱いのだと思い知らされる。壊したくない。また逢えると信じたい。
『探しだして、必ずここに連れ戻す。』
そんな言葉が耳のどこかで響いた気がしたのは、黒崎くんならそういって引き止めてくれた気がしたから。
(駄目、逃げては駄目。)
もう傷つく姿見たくない。別れで君の重荷が減るのなら。
立ち上がりさようならを告げる。橙の空は夜に飲み込まれようとしていた。
指先に感じた熱
掠めた指先と指先が熱を帯びた気がした。
end