頭に血が流れてゆかない。兄の指が私の首に絡まる瞬間のあの笑顔がちらちらと脳裏に浮かぶ。しかしそれを思い出すと身の毛がよだつようになるのでふるふると頭を振りながらただ走ることだけに専念した。
幼さの残るあの容姿は母親似だと思う。二人して父親の容姿を含んだ遺伝子を受け継がなくてよかったと、最後の最後まで、気管が圧迫させられるまで下らないことをどこかで思った。
そしてその次に考えたことは、父親から唯一受け継いだ血を欲する遺伝子の塊から、逃げることだった。
(死に追い掛けられるなんて。)
走れる足がある。自由の効く腕がある。考える頭がある。それだけで自分達は殺し合わなければいけないのか。その足が、腕が、なくなるまで。
(そんなの嫌アル!)
この足の、腕の、頭の使い道はきっと他にもあることを証明するために、今はまだ兄に捕まることはしないと、誓った。
逃 げ る
end
2015/04/10