あたたかい。

最初に感じた感覚。覚えている。腕の中、すっぽり入り込んだ胸の中でふわふわした感覚の中思っていた。

「リナ。」

私の名前を呼ぶ声。幼い頃に聞いた声とは違って、少し擦れた声。閉じた目を開けば、逞しい腕が目に映る。

「…あれ、」

抜けた声で疑問のような言葉を口にすれば、頭上からなんだよ。と声が振ってきた。見上げればもうずっと前からの顔馴染みの彼と視線がぶつかる。

「なんだか、夢を見ていたみたい。」

そう言って笑うと、彼は機嫌が悪そうに顔を背ける。不機嫌そうな面持ちには慣れたけれど、なんとなく頬が赤らんでいることには新鮮味があって。驚きと同時に嬉しくも感じた。
昔、抱き締めてくれたときの事を思いだすように目を閉じる。わたしはまだまだ幼くて、あなたのことを家族のように思っていた。年の近い私のことをよく気に掛けてくれたこと。泣く私をぶっきらぼうにも抱き締めて、そばにいてくれたこと。

(ほんとうに、家族だと思ってたんだよ。)

目を閉じたまま、意識を自分の鼓動に耳をすませば、鮮明に聞こえる音。急かしているような音は昔とは違うことを知る。

「ありがとう、いつも傍にいてくれて。」

今ならわかる。この感情の名前は、


「好き、大好き、よ。」



思 い 出 す

もうずっと前からこの感情は変わらない。けれどそれがひとりの男性として、と知ったのはついさっきのことで。


「…こっち見んな。」

顔を上げれば、そう言って顔を背け、耳まで赤くした顔。その顔が昔の幼くも頼りにしていた、家族と思っていた頃の彼の表情と重なった。






end


2015/04/30




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