「近づかないで、お願い。」

膝を抱えて、身を小さくしている彼女を見つけた。心配の言葉を口にして、触れようとすると、否定の言葉が飛んできた。
顔も上げないで微動だにしない彼女の事が本当に心配になって、隣の空いた席へと腰を下ろした。

「多分、心にもない言葉であなたを傷つけてしまう。」

だから、と小さくつぶやき更に小さくなった。彼女が感情を顕にすることは最近なくなっていた。些細な事では挫けない、真っすぐに見つめて向き合う。それが今はどうだろう。以前僕と喧嘩した時よりも機嫌が悪いようだ。

「悲しんでるからこそ、傍に寄り添って理解したい。」

なんて。そんな言葉、

「今の私にそれは通用しない。」

心の声を読まれたようですこし驚いた。だけどそれは僕もしっている。
けれどたぶん僕にはそれしかでいないこともしっている。けれど君と見つめあえたら、と殻にこもってしまった彼女が次に顔をあげて、目があうまでその場所を離れるつもりはないと、恥ずかしげもなく告げた。

しばらくの沈黙の後、小さな声で「バカ」と聞こえて、そして。


見 つ め る

根負けした彼女の悔しそうな顔と、涙で目を紅くした彼女と目が合った。


(誰かの為に流した涙、)
(彼女の怒りや、不安、悲しみを共有、救うことができたなら、)




end


2013/05/18





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