暑い、あつい。
ソファに寝そべり窓の外に目を向けると太陽が空の天辺まで昇っている。容赦なく注がれる太陽光は視界を狭くさせた。

「海にでも行こうか。」

私のうなだれている様子を一見してからさっきまで読んでいた雑誌に視線を戻して雷光は言った。

「やだよ。だって暑いもん。」

ここから動きたくないとでも言うようにぽつりつぶやいた。
夏は、嫌い。身を焼くほどの気温が、ジリジリ音を立てて頭の思考を奪ってゆくから。自分の体温を忘れてしまったような錯覚を起こすから。もともと熱かったのか、冷たかったのかわからなくなる。焼け尽くすようなコンクリートの上、攻めるような日差し。考えただけでも嫌だ。

暑い、あつい。

「雷鳴は、昔から暑いのが苦手だったね。」

「…雷光はよく平気でいられるな、こんなに暑いのに。」

そう言い、のろのろと立ち上がる。温度計に目をやると「27℃」となっていた。あれ、そんなに気温は高くないんだ、

「それほど、暑くないと思うのだけれど。」

すぐ後ろ、背中から声が聞こえたと思ったのと同時に明るいピンク色が視界にうつる。温度計を覗き込む雷光は数字を確認してやっぱり、と付け加えて言った。

「…あついよ。だって、」
(こんなにもあつくて、溶けそう。)

目が合う。すごく近くで見た顔はとても整った顔をしていた。本当に自分と同じ血や遺伝子が流れているのだろうかと疑うほど。認めたくないけれど、綺麗。そんなことをぼんやりと考える。

「熱があるんじやないか?」

雷光の言葉と同時に手が額に伸びてきて、ようやく停止しかけていた頭が働くようになった。

「…っ雷光!」

額に触れる前に、発した言葉に雷光の手はぴたりととまった。不思議そうな顔をしている。次の言葉を待つように私の顔を覗き込んでいる。しまった、無計画に思わず叫んでしまった、と慌てた。

「…あ、そうだ。や、やっぱりさ、海に行こうよ。」

雷光の言葉を咄嗟に思い出して、それを救いと言わんばかりに提案した。

「そう?」

少し気になるようだが私に促された雷光は、じゃあ支度をしておいで。とにこりと笑った。

咄嗟に出た言葉とは言え、海に行くことは決まった。こんな日差しの中、海まで行くのかと思うと少し憂鬱になったがまあ仕方ないかと余所行きの服に着替えた。

それに、雷光の手よりも、海水の方が、上がりすぎた熱を冷ましてくれるだろうし。そう思いながら海水の冷たさを想像した。


(触れられればまた熱があがるような気が、した。)

部屋の外に出れば夏の気温が待ち受けてる。
少しうれしそうな様子の雷光に手を引かれて海を目指した。焼け尽くすようなコンクリートの上、攻めるような日差しに繋いだ手は汗ばんでいた。だけど今はそんなに嫌じゃない。

(ああ、暑い。)


束の間ならば融けていられる


end

BGM:/

2010/09/23
夜風にまたがるニルバーナ





- ナノ -