遠い昔の愚かな話。



ある国の城に、国王とその娘ともう1人、国王の2人目の妃が居た。

前の妃は娘を残し、亡くなった。






つまり、今は私が王の妃。


はたから見れば、華やかなものだろうが、実のところ、退屈で寂しいものだ。

ただ微笑みを浮かべ、王の隣で座っているだけ。

王は国を治めるのに忙しく、私とほとんど顔を合わせる事はない。
しかし、彼は暇が出来ると、娘と話している。

それを見る度、私は彼等と距離を感じた。

彼の娘ともほとんど会話がないから余計に。



寂しかった。
だから私はいつも自室にある鏡に向かって、問いかける。その言葉は決まってこれ。

「鏡よ鏡。この世で最も美しいのは…?」

何度この言葉を言っただろう。




ある日、これが馬鹿馬鹿しいと思い、鏡に背を向けた時、声がした。

誰だと思い振り返ると、声の主は鏡だった。

そして鏡はこう答えた。



『それは貴女様です』



答える筈のない鏡が答えた。
私は困惑したのと同時に嬉しかった。


────私を見ていてくれている。答えてくれる。




それからだ。私が狂ったように鏡に問いかけ続けたのは。


鏡にどんな質問をしても、答えは、『それは貴女様です』。馬鹿の1つ覚えのように、こればかり。

それでも構わなかった。





そして今日も鏡に問いかける。いつものように。

「鏡よ鏡。この世で最も美しいのは…?」

答えは当然『貴女様です』。そう返ってくると思ったが、違った。



『それは姫様です』



自分の耳を疑った。

彼女は私の義理の娘。
今まで何とも思っていなかったが、急に憎らしくなってきた。


それからというもの、鏡の答えは全て、

『姫様です』

になった。



悲しくなった。

鏡からも見放されたのかと。


しかし、その悲しみは彼女に対する憎悪と怒りに変わり、私の心を支配した。

その日から、私は鏡に再び『貴女様です』と言わせる方法を考えた。




いくら考えても1つしか思いつかない。





────彼女を、

  殺すしかない…。






鏡が見ていたのは“容姿”の美しさではなく、“心”の美しさ。




心の美しさ。

それが妃と姫の違い。






遠い昔の愚かな話。



妃がどうなったかは、言うまでもない…。







end
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