知恵の輪。鉄でできた輪を幾重にもからませた、子どもの玩具。
簡単なようで、意外に難しい。
僕が小学2、3年の時、祖父から知恵の輪をもらった。あの頃は全く嬉しくなかった。
「ゲームをやる」と言われ、何だろうとワクワクしていたのに、渡されたのが、知恵の輪。
正直、がっかりした。
しかし、「ありがとう」と言い、それを受け取った。
祖父のがっかりした顔を見たくなかった。
だが、受け取っただけで、やろうとはしなかった。
その年の冬。その祖父が入院をした。
あの頃の僕は幼すぎて、何の病気かわかっていなかった。
入院してから、祖父にあまり会いに行っていない。
ベッドで横になっている祖父になんと声をかけたらいいか解らなかった。
横になったまま、力なく手を振った祖父に、手を振り返すのが精一杯だった。
それから何日かして、僕はふと知恵の輪の存在を思い出した。
引き出しから引っ張り出して来て、カチャカチャといじっていた。
解くわけでもなく、何となんとなく。
───……じいちゃん、何してるだろ。
カチャン
その時、輪の1つが外れ、手から滑り、床に落ちた。
僕はそれを拾おうと手を伸ばした時、家の電話が鳴った。
この時、家には僕しか居らず、僕は電話の方へ駆け寄った。
「…はい。」
病院からだった。
祖父の訃報だった。
突然の事だったらしい。
僕は一通り聞くと、受話器を置いた。
しばらく唖然とした。
何だろう、このタイミング。僕が輪を落とした時にこの電話。
タイミングがいいというか、悪いというか…。
何だか怖くなった。
それから9年。
知恵の輪はまだ手元にある。
祖父は僕に何が言いたかったのだろうか。
END