学校へ行くために、いつも同じ時間のバスに乗る。そして、いつも同じ席に座る。ステップを上がって、もうひとステップ上がってすぐの運転席側の席。


そこが俺が勝手に決めた“指定席”


今日もいつものようにバスに乗る。“指定席”を見る。人が座っていた。他校の制服の女子。じっと下を見て本を読んでいる。

一瞬、戸惑った。どこに座ろう。少し考えた後、ステップを上がり、後ろから2番目の運転席側の席に座った。彼女が見える席。

いつの間にか俺は彼女の後ろ姿を見ていた。
バスが揺れるたび、彼女のサラサラとしたセミロングの髪が揺れた。



学校前のバス停に着いた。俺はバスを降りるために立ち上がる。彼女の横を通る。彼女がまだ乗っているということは、彼女の学校はこの先らしい。


こんな些細な事、すぐに忘れる。


帰り。
帰るためにバスに乗る。帰りのバスでも、いつも無意識のうちに“指定席”と同じ席に座る。
だが、今日は座れなさそうだ。人が座っていた。
仕方なく、今朝の席に座る。

────…ん?

よく見れば、今朝の彼女ではないか。
彼女はあそこの席を自分の“指定席”にしたらしい。
行きも帰りも、彼女の方が先だ。彼女と同じ席に乗る限り、あそこの席は彼女の“指定席”になる。

俺はまた、彼女の後ろ姿を見ていた。


翌日、いつものようにバスに乗る。“指定席”の方を見る。
俺は新しい“指定席”に座る。そして知らないうちに、彼女の後ろ姿を見ていた。サラサラと髪が揺れる。


何ヵ月か、こんな日々が続いた。
彼女は何くわぬ顔をして座っている。俺も何くわぬ顔をして座る。
彼女の後ろに座るたび、不躾なようだが、俺はその後ろ姿を見ていた。





秋も深まり、冬の気配が近付いて来たある日。
“指定席”が空いていた。彼女が座っていない。何処にも。
俺は人知れず、彼女の姿を探していた。
俺は新しい方の“指定席”に座った。何だか目の前が殺風景に見える。

何故か、あの後ろ姿が懐かしい。何故だろう。解らない。




俺は多分、あの“指定席”には座らないだろう。


あそこは俺でなく、彼女の“指定席”だから。



もう1度、あの後ろ姿が見れたなら………。






END




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