御幸一也
高校生






部活をやってるうちは恋愛なんて興味がない、むしろ邪魔だって思ってた。

同じクラスで仲が良かった女友だちのみょうじのある一言を聞くまでは。


「あたし、彼氏できたんだ」

「・・・へー」

「へーって!おめでとうとかないの?」

「おー、おめでとう」


あまりに嬉しそうな顔で言われた。

急に胸がモヤモヤした。


なんだこれ。

みょうじに彼氏?

ふーん。


・・・なんだこれ。
みょうじを他の男に取られてショックをうけてるのか?


うまく整理ができなくてぼーっとしてたら追い討ちをかけるようにその彼氏とやらの写真を見せられた。



大切なものはなくなってから気付くってどっかの誰かがテレビで言ってたけど、こんな形で恋心に気付いてしかも速攻失恋かよ。
だせぇ。




いや、俺の恋人は野球だし。

恋愛なんて興味ねぇし、邪魔だし。

と、言い聞かせたけど、その日の部活はミスしまくりだし、全然打てねぇし最悪だった。




それから3年生になってみょうじとは違うクラスになって関わりがなくなった。

でもたまに見かけるあいつの笑顔を見るとちょっとだけ胸が痛くなった。



*****



時がたって卒業式の前日。

みょうじが俺のクラスにやって来た。

俺の前の席に座り、体をこちらに向けている。

「久しぶり」

「久しぶり。なんか用?」

「明日卒業式かーって思ったら寂しくてさ。今思い出巡りしてんの」

「ふーん」

「ふーん!って!」

「はっはっはっ」

あの頃と変わらない。
話してるとやっぱり好きだなぁなんて思ってしまう。




「ねぇ、欲しいものがあるんだけど」

「ん、やだ」

「まだ何か言ってないじゃん」

「何が欲しいの?」

みょうじは珍しく緊張した顔をした。


そして耳元で「第二ボタン」と言った。

「は?」

「あ、もしかして予約入ってる?」

「予約なんかねぇけど、なんで彼氏いるやつにあげなきゃいけねぇんだよ」

「彼氏・・・いないもん」


なんだそれ。

なんだこの展開。


もしかして、こいつに想いを伝えるチャンスある?




「第二ボタンは好きな子にあげたいんだけどな〜」

「好きな子いるんだ・・・」


あからさまにしょげた顔。
俺の顔はニヤニヤしてきた。

「なぁ、第二ボタン欲しいって意味わかって言ってる?」

「・・・あたりまえじゃん」

「ふーん。じゃあさ、一回しか言わないからな。よく聞いてろ」

「えっ?」

ぐっと顔を近づけ小さい声で一言。


「明日俺の第二ボタンもらってくれる?」

「・・・っ!意味わかって言ってる?」

「はっはっ、あたりまえじゃん」




なにはともあれ、高校生活は、ハッピーエンドで終わりそうだ。



END


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