日常風景

ばしゃっ…。
上から水が落ちてきた。いや、上から水をかけられた。
なんとなくトイレの個室に入ればこれだ。
ぽたぽたと毛先から雫が落ちる。
いやだなぁ、今の時期は冬だから乾きにくいんだ。
それに風邪も引いてしまう。
個室の外からくすくすという笑い声に似た雑音と逃げていく足音が聞こえた。



小さく、ため息をついて個室から出る。
基本的にここのトイレには誰も来ない。
遠いし暗いので。


着ていたセーターを脱ぎ、水気を絞る。
ついでに絞ろうと思い、カッターシャツを脱ぐ。


自分の体にある無数のケロイド、痣をみてふっと笑い最近できた根性焼きの跡を爪で抉った。




どこにでもいる男子高校生な自分。
ただちょっと家庭環境がおかしくて、理由は忘れたけどイジメを受けていて。
そして性癖がマゾなだけ。


それだけ。


いつもはわけのわからない奴らに呼び出されてボコボコにされるんだが、今日のようなぬるいいじめにイライラしてる時に限ってないとは。
俺のストレス解消がなくなってしまった。
下校途中、濡れている俺を見てくすくすと笑われたがそれだけでも足りなかった。


足早に家に帰る。家には誰もいない。
服を脱ぎ洗濯機に放り込む。
俺もこんなふうに地面に叩きつけられたらイけるのに。


自分の部屋に行き、机の引き出しからカッターを取り出す。
しかし物足りないなぁと思い、カッターの刃だけを取り出し強く握り込む。


刃が皮膚に食い込んで、細胞を切って、じわりと血が滲み出す。
そのさまをうっとりとした顔で見る。
その瞬間、痛みがたまらない。


下腹部が熱くなった。


刃の先から血が滴るそれを手首に当てる。
そして勢いよくすっを刃を引く。
血が落ちる。


自分の肘を伝って、床にシミを作っていく。
床にごろりと寝そべる。
そしてシミを作っている血を舐めとる。


鉄の味が口の中に広まった。


これが俺以外の誰かが俺の体に傷をつけて、その血だったらいいのに。
いつもそう思うんだけど。
世の中なかなかうまくいかなくて、俺なんかを性的な意味で暴力をふるってくれるやつなんていなくて。


別にいじめとしてただのサンドバックの様に殴られて快楽を得るのもいいけど。
たまには愛されたいじゃないか。


イライラしてきて無意識のうちにカッターの刃を捨てて先ほど切った手首を爪で抉っていた。
お陰で手のひらも切っているしで真っ赤である。

手首を抉るこの感触がたまらない。


俺の少ない語彙で表すならば、細胞をかき分けて骨にまで届けばいい。
まるで砂山を作ってトンネルをあける。


そんなワクワク。そして快楽。
痛いことが気持ちいいという性癖に負い目なんて感じたことなんてない。
むしろいいと思っている。


顔が腫れるほど殴られようが。
体中が青紫になるほど蹴られようが。
気持ち悪いと体にタバコを押し付けられようが。


何されても気持ちがいい。


ふふっ…と笑いがもれ、手首を先ほどより強くひっかく。
気持ちいい。


でも、一回だけでも、愛のある暴力を。
愛してるって言われながら殴られてみたい。



できやしないけど。





END

[] [モドル]

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