絆の証!



 ――首都東京の地下深く。大きく虚ろに開いた空洞に蠢く影。

《・・・・・・見つけた・・・見つけたぞ、GODの力の鍵を・・・・・・!》

 負の歓喜に打ち奮える声が木霊した。地上では何も知らずに人間たちが忙しなく行き交っているばかり。

《我々の邪魔をする奴らには、思い知らせてやらねばなるまい・・・――!》


***


 珍しく、うっすらと白い雪が東京の街を覆った冬の朝。年末を目前に控え、道行く人は年越しの準備に奔走し、または順調に準備を終えて引き籠もり始めているに違いない。
 こちらGODでも、仕事に年末年始はないが門松や破魔矢くらいは飾っておくことになったらしく、倉庫にはひっそりとそれらの飾り物が鎮座していた。時折そこを訪れるミズキの手によってけばけばしくデコレーションされていることにみんなが気づくには、まだ時間は掛かるだろうが。
 師走とは師も走ると書くのだと教わった。サンクタム・フラットに続く廊下を歩くイグニスとイーガルにはその理由が分かる気がした。すれ違う人は誰もが急ぎ足で、特に襲撃があったわけでもないのに忙しない。

「年が変わるったって、ただ一つ数字が増えるだけなのにな」
「だけど今年一年を振り返って、それから次に来る一年を迎えるんだろ? やっぱりそれなりに準備もいるし、時間も掛かるんだよ」
「へえ、そんなもんかね」
「そういうものだと思うけどな、オレは。・・・・・・まあ、オレたちの場合は振り返る時間は半年分もないわけだけど」

 そう言いながら、ふと喋るのを止めたイグニス。確かに自分たちは起動してからの時間は短い。けれどそこから今までには半年分以上の出来事が詰まっていたのではないだろうか。
 ――初めて現われたパラサイダーとの対決。タカシとの、そしてその友人との出会い。
 ――イーガルと出会ったことも、デルタチームが仲間に加わったことも忘れてはならない。
 ――喧嘩ばかりの彼らが、初めて心を一つにした時。
 ――合体を成功させ、イデルタとなって戦った時。
 時間が流れてゆくと同時に、少しずつ自分たちは変わっていった。それはたとえ短い時間だったとしても、小さな変化だったとしても、確実なことで。

「・・・だけど、たくさんの出来事があったよな」

 ふっと和らいだ雰囲気を醸し出す兄を見下ろして、イーガルも口端を上げた。

「お前にもまた会えたしな」
「はは、そうだな!」

 目まぐるしく起こる出来事の中だったが、この出会いは紛れもない奇跡だ。それを忘れてはいけないな――とイグニスが肝に銘じ直した時、ちょうど二人はサンクタム・フラットの入口に到着した。
 すると、中の騒がしさに気づいたイーガルがさも面倒だと言わんばかりに顔を歪めた。それもそのはず、騒がしさの元凶はブロー相手に口やかましく文句を飛ばしているエースなのだ。
 イグニスとはまた違った線で生真面目なエースと、自分勝手で揶揄い癖のあるイーガルは、当たり前のことだが平生から仲が悪い。だからエースの機嫌が悪い時にはイーガルへの文句も多く、そこに噛みつき返して更に事を荒立てることも珍しくないのだ。間違いなく不機嫌メーターの吹っ切れているエースと、これまた不機嫌な弟の顔を交互に見て、イグニスはこの先の展開を予測して溜息を吐かざるを得なかった。

「ああ隊長! 聞いて下さいよ、またカールズの姿がどこにも見えないんです! しかも通信機も切ってしまっていて、居場所の見当もつかないし、全く自分勝手にもほどがありますよね!」

 問い掛ける響きを持つはずの語尾には断定の色しかなく、一気にまくし立てられたイグニスは生返事めいた相槌しか打つことが出来ずに苦笑を浮かべた。また彼にそういう顔をさせるところも、エースがイーガルの不興を買う一因なのだ。

「おい鳥、ピーチクパーチクうるせーぞ! イグニスが困ってるだろ」
「私は隊長に報告をしているだけです。あなたに文句を言われる筋合いはありません」
「お前のは文句じゃなくてただの愚痴だろーが」
「何ですって!?」

 ――ああ、始まった。
 一息に加速した言い争いを見上げて、イグニスは二度目の溜息を吐いた。こういう時は隊長である自分がビシッと捌かなくてはならないはずなのだが、それも上手くいかなくてその度不甲斐なさを感じしまう。
 当然、そんなことをあれこれ思案させているとは、エースとイーガルはこれっぽっちも思っていない。

「オレがカールズを探してくるよ。だから二人とも、喧嘩はやめろよ。な?」

 とりあえずこの場を治めようとして挙げた提案はエースの眉間に更にシワを寄せさせた。彼とて部下の不始末はリーダーたる自分の責任だと分かっているのだ。本来ならば自分で始末をつけねばならないのだが、彼自ら街へ出向いていくことは体格上にも危険な上規則違反である。けれどもその責任をイグニスに丸投げするのも納得がいかない。
 どこまでも規則に厳しいエースにとっては板ばさみで、余計に機嫌も悪くなるというものだ。しかし外に出てはならないのなら、ここは頼む以外他に手はない。

「・・・・・・分かりました、お願いいたします」
「よし!」
「待てよイグニス、俺も行くぜ」

 さっそく外へ向かおうとするイグニスの後ろをイーガルが追い掛ける。兄にとっては仲間を探す大事な用件だが、弟にとっては仕事をサボる口実でもあるのだろう。そう勘づいてしまい、エースは眉間に人差し指を押し当て溜息を零したのだった。その姿を見て、ブローもまた人知れず嘆息する。また一人で愚痴の相手をせねばならないのか、と――。


***


 街へ捜索に出た二人は、空からイーガルが、下ではイグニスが、しらみつぶしに目を走らせていた。オペレーションルームに聞いたところによれば、ロボットによる被害報告などは出ていないらしい。ならば近場に――そして人気のない所に居るのだろうと目星をつけ、彼らは近郊の廃工場の方角へ向かっていた。
 積もった雪はもう半ば溶けてしまい、工場跡地には濡れた地面とコンクリートが広がっていた。だが、置き去りにされたコンテナの影にはまだ、手つかずの雪がわずかばかり残っている。しんと静まり返る建物を見回し、ここではないのだろうかと肩を落とすイグニスの通信機にイーガルから通信が入った。

『奥の倉庫っぽいとこに反応多数。多分間違いねーはずだ。降りてみるわ。お前も来いよ』
「ああ分かった、ありがとう!」

 バイクを停め、入り組んだ道を奥へと進む。いくつか錆びた倉庫が立ち並ぶエリアに辿り着いたところで、その内一つからかすかな話し声が聞こえた。くすくすと押し殺したような、それでいて楽しくてたまらないような子供の声。聞き覚えのあるそれらは解析に掛けずとも判別するのは容易だ。

「みんな、ここで何してるんだ?」

 入口から覗けば、思った通りタカシやうらら、ゴー、ハカセと共にカールズが何やらこちらに背を向けて屈み込んでいた。何気なく彼らの背に声を掛けたイグニスだったが、途端にぎょっとした顔で一斉に振り向かれ、逆に彼の方が驚いてビクッと一歩退いてしまった。うららに至っては短くも甲高い悲鳴まで漏らす始末だ。そんな両者のやり取りを、壁際で一人離れていたイーガルがげらげら笑う。

「イーガル! イグニスは来てないって言ったじゃんか!!」
「悪いなー、また驚かせたくなったもんで」
「何の話だ?」
「俺が入ってったら、チビたちが面白いくらい驚いたからさ。もう一回その顔見たくて、お前も来てること黙ってたのさ」
「ひどいよね、イグニス!」
「嘘つきはいけないんだぞ!」

 話によると、イーガルは先に中に入ったようだ。二度も驚かされたことがよほど癪に障ったのかかんかんに怒っている子供たち、それをニヤニヤ眺めているイーガルにそれぞれ目をやって、イグニスは思わず噴き出してしまった。

「あっ、イグニス笑った! 笑わないでよ!」
「ごめんごめん、イーガルも子供っぽいことするなと思って・・・」
「おい、そっちかよ!?」

 揶揄い顔だったイーガルが一転してむくれ顔になる。それを見たタカシたちが笑ったので、場の雰囲気がふわりと柔らかくなった。
 ――ふとカールズが喋らないのに気がついて、イグニスは座っていてもなお高い彼の顔を仰いだ。

「・・・カールズ、今日は静かだな?」
「うん? ああ、だってほら、この子!」

 にかっと笑いながら差し出した手のひらを覗き込み、彼は目を丸くした。
 手のひらの上にはころころと太った三毛ネコが、随分懐いている様子でごろんと寝転んでいたのだ。

「どうしたんだ、このネコ」
「この子、オレの友達なんだ! タカシたちに自慢してやったの」
「そうそう! 可愛いわよね!」
「名前、何だっけ?」
「ゴーくんの忘れん坊・・・・・・ミューちゃんですよ」
「ああ、そうだそうだ、ミューちゃんだ!」

 呆れ顔のハカセにたしなめられてぽんと手のひらを打ったゴーの声に反応したネコは、くぁーっと欠伸をしながらぱっちりした目でゴーの方を見上げた。

「ミューン」
「あっ、鳴いた」
「大方ミューミュー鳴くからそんな名前なんだろ、子猫ちゃんらしいぜ」
「うっさいなー、可愛いじゃん! なぁミューちゃん?」
「ミュゥン」

 カールズが話し掛けると、まるで言葉が分かっているかのような顔で応える。すると彼は嬉しそうに満面の笑みを浮かべるのだ。同じネコ同士、通じる所があるのかも知れない。あたしにも見せて! と背伸びするうららに手の中の友達を見せる姿は正に友達自慢なのだろう。子供たちが可愛い可愛いとはしゃぐ度に、まるで自分が褒められたかのようにふんぞり返っている。
 ――ピロロロロン・・・・・・♪
 不意に、電子アラーム音が鳴り始めた。おそらくケータイにプリインストールされているのであろうありきたりな電子音に肩を落としたのはハカセだ。

「塾の時間だ。僕もう行かなきゃ・・・」
「そっかあ・・・でもここ来ればまた会えるからさ、そんな寂しい顔すんなよな!」

 しょんぼりとうなだれる彼の背を、明るいカールズの声が叩く。

「そうだよ、明日も来よう!」
「うん、オレも付き合うよ、ニューちゃんと遊ぶの!」
「ゴーくん・・・ニューちゃんじゃなくてミューちゃん」

 えっ? とゴーがどんぐり眼を瞬かせる。途端にぷっと吹き出したハカセはにっこり笑顔を浮かべると、今度は活気ある足取りで入口へと駆け出した。

「あ、あたしもそろそろ行かなきゃ」
「へっ? うららちゃんも塾?」
「ちっがうわよ、ママのおさいほう教室があるの。じゃ、また明日ね! ・・・待ってよハカセ、あたしも途中まで一緒行く!」

 唇を尖らせ、腰に両手を当ててまくし立てると、うららもカバンを掴んでハカセの後を追い掛けていってしまった。残されたタカシとゴーが顔を見合わせる。

「ま、お前らもそろそろ帰れ。子猫ちゃんも戻らねーとならないしな」
「そうだった。エースに頼まれたんだよ、連れ戻せって」
「えーっ、エースに? 隊長、エース怒ってたでしょ?」
「うーん・・・まあ、そうだな」
「勝手に居なくなったってカンカンだったぜ? これからは気ィつけな」

 はーい・・・と肩を落として頷く様は、これからのお説教を思っているのだろう。確かにあの怒りようでは長引きそうだとイグニスも思う。

「また来られるんだから、今日はもう、な。そろそろ暗くなるし」

 そう言って入口を向けば、差し込んでくる夕陽はもううっすらと青みを帯びていた。冬の日は短いのだ。タカシとゴーも仕方なしにカバンを背負う。

「じゃーね、ミューちゃん」
「カールズたちもバイバイ!」

 くるりと大きな瞳で二人を見つめるネコに手を振り、それからイグニスたちにも別れの挨拶をすると、タカシとゴーも連れ立って暮れなずむ街へと姿を消した。
 その背が見えなくなるまで見送った後、カールズはネコを地に下ろす。ぴょんと軽やかに飛び降りたネコはそのまま壁際に置かれた段ボールへ歩み寄り、中へポスンと収まって顔だけをひょこりと覗かせた。

「ミューちゃんのベッドなんだ、あそこ」
「へえ、子猫ちゃんが作ってやったのか?」
「ううん、元々あったの。でも毛布はオレが持ってきた」

 ということは長らく野良生活をしていたのかも知れない。様子を窺うようにこちらを見つめている友達に名残惜しげな視線を送ったカールズだったが、遅れれば遅れるほどエースの機嫌が更に悪くなることは承知の上。はあ――と溜息を吐いてバイバイと手を振った。ネコも 「ミューン!」 と鳴いて尻尾を振る。頭良いなあ、とイグニスは何度も感心してしまう。

「――あのネコ・・・ミューちゃんとはいつから友達なんだ?」

 GODビルへ帰る道すがら、空を見上げてぶらぶら歩くカールズの足元からイグニスが訊いた。純粋に気になったから尋ねるのだが、その他にも足元がお留守になりがちなカールズに注意してもらう意味合いも込めて。6メートルもあるカールズはただでさえ人間に脅威となる体格にもかかわらず、ブレインサーキットがそれを自覚していないようなのだ。

「うーんとね、二週間くらい前だな。ほら、遊園地の事件の前」

 メリーゴーランド楽しかったな――と彼は朗らかに笑う。イグニスを見て歩いている限り道路沿いの障害物を踏むことはないが、代わりに前方が不注意になる。それをカバーするためにイーガルは彼の前を飛んでいるのだった。

「じゃあまだ会ったばかりか」
「うん・・・でも、時間は関係ないよな? オレとミューちゃん、もう友達だもん」
「ああ、そうだな」

 珍しくおずおずと切り出したカールズに、二人がそれぞれ頷く。すると、他の仲間より幼く見える造詣の顔がにっかり笑みを浮かべた。色のせいもあるが、カールズの笑顔はヒマワリのようだ。

「また明日会いに行こうよ、隊長!」
「ああ!」

 笑顔が伝染し、イグニスだけでなくイーガルまでもバイザーの下のカメラアイに優しい光を灯した。
 しかしサンクタム・フラットへ戻った彼らを待ち受けているのが怒り心頭のエースによる長説教だとは、今のところまだ気がついていないのである――。


***


 そして、時は過ぎ。大晦日の慌ただしさは一転、新年のゆったりした空気に変わっていた。飾り立てられた門松を見たユイリがミズキに雷を落とすハプニングはあったものの、GODでも新年の清々しい気持ちが浸透していて心地良い。

「ただいまイーガル、昼前だけど寒いな。日陰のとこにはまだ霜柱が残ってたよ」
「当たり前だ、気温一桁だぜ? パトロールばっかして、関節凍っても知らねーぞ」
「そんなこと・・・いや、あるかもな」

 ビルへ戻ると、エントランスホールのソファに寝転がったイーガルが軽く手を振って揶揄ってくる。苦笑しつつイグニスがくるりと腕を回すとわずかながらパキリと音がしたので、彼は驚いたように瞬いてイーガルを見て言った。当のイーガルも少し驚いた顔をしている。

「まさかあ。凍らねーだろ、ロボットだぜ?」
「バイクに乗ってたからなあ・・・」
「なるほど・・・くそ、俺が飛んできゃ良かった」
「空の方が寒いんじゃないか?」
「あ、そうか」

 顔を見合わせ、二人して吹き出した。こういう時間があると平和とは本当に良いものだと噛み締められる。
 すると、そんな二人の元へ元気な足音が駆け込んできた。GODビルを訪れる者の中でこんなにはつらつとした駆け足ができるのは一人しか居ない。

「イグニス、イーガル! あけましておめでとーっ!」
「やっぱりタカシか・・・あけましておめでとう!」

 ぐるりと身体を反転させたイグニスの胸に飛び込んできたのは予想に違わない人物、タカシだった。新年の挨拶を交わし合う二人の傍らで、ぐーっとソファに伸びたイーガルからは 「あけおめって略すんだろ?」 という笑い混じりの言葉が飛ぶ。

「へえ、あけおめか」
「そうそう、あけおめことよろ!」
「ことよろ・・・今年もよろしくお願いします、か!」
「うん!」

 挨拶っていうよりも暗号みたいだなあ、とイグニスが苦笑する。弟と違い、彼の方はあまり砕けた表現を知らないのだ。

「そんなことより、今日はどうした? 他のみんなは?」

 いつもなら一緒に居るはずの友達の姿を探しても見当たらない。不思議に思い問い掛けると、タカシはわざと気にしていない素振りで答えた。

「みんなは家族と一緒! だってお正月だもん。僕はイグニスたちに新年の挨拶しに来たの!」

 それを聞いてイグニスとイーガルは顔を見合わせる。GODの職務に正月休みはなく、当然アキラも朝から仕事に追われている。両手を頭の後ろに組み、にっかり笑ってみせてはいるが、タカシも内心は寂しいのだろう。悪いこと聞いちゃったな、と言いたげな表情を浮かべたイグニスを見兼ねて、イーガルがいつもと変わらない声音で言った。

「そんならサンクタム・フラットに行こうぜ。デルタチームも寛いでる頃だしよ」
「えっ、中に入っていいの?」
「良いよな、イグニス? “主任”に連絡してくれよ」

 主任という単語を少しだけスローに発した意味はすぐイグニスに伝わった。中へタカシを連れていっても、アキラと鉢合わせなければ良い話なのだ。

「分かった、ちょっと待っててくれ。・・・主任、お願いがあるんですが」

 何となくタカシらに背を向け、しゃんと背を伸ばして通信チャンネルを開いたイグニスの回路に、ほどなくアキラの声が届く。

『お願いって何かしら?』
「はい、あの・・・タカシをサンクタム・フラットへ連れていきたいんですが、構いませんか?」
『ああ、そういうことなのね・・・・・・ええ、構わないわ。ありがとう、お正月だっていうのに構ってあげられなくて・・・タカシの相手、頼むわね』
「は、はい!」

 通信なのだから相手には見えやしないのに、思わずピシッと敬礼を決めたイグニスをイーガルがくっくと笑った。こっそり二人の通信を盗み聞きしていたので、背を向けている兄が今どんな顔をしているか容易に想像がつく。間違いなく真っ赤になっているはずだ。
 そんな推測をされているとは知らず、イグニスは人間じみた溜め息を吐いて振り返った。わずかに熱を帯びてはいたが、目に見えた変化は窺えない。それでもイーガルがくつくつ笑いを止めないので、小首を傾げたのはタカシだ。

「イーガル、何笑ってんの?」
「いいや、何でもねーよ」
「二人とも、ひそひそ話か?」

 キョトンと瞬くイグニスに、イーガルがねー! と言い募ったタカシの頭をぐっと押さえつけ、イーガルはパタパタと手を振って誤魔化した。

「何でもない何でもない!」
「もー! 離してよお!」

 じたじたと不満そうに足を踏み鳴らすタカシからようやくイーガルが手を離す。パッと彼の元を離れた少年は、イグニスの腕にひっついてあっかんべーと舌をちらつかせた。そこからまた始まりかけたいさかいを慌ててイグニスが制す。

「もう、喧嘩してる場合じゃないだろ?」
「そうだった! ねえ早く連れてって!」

 今度は一転して輝かんばかりの笑顔になる様子は子供らしい素直さの証だろう。それには思わずイグニスたちの方まで笑みが湧いてきてしまうほどだ。それじゃ行こうかと促されるまま、少年たちは地下のサンクタム・フラットへと降りていった。
 そうしてサンクタム・フラットへ続く扉を開けた一行だが、目に入ったのは赤と緑のみ。鮮やかな黄色は見当たらない。あれっと漏らしたイグニスに対し、待ってましたとばかりにエースが足速に近付きまくし立てた。

「隊長、またカールズが勝手にここを抜け出して! あのミューちゃんとかいう友達の所へ行ったに違いないんですよ、私に一言添えて行けば良いものを・・・・・・おや」

 ピタリと止まった口の代わりに、今度はカメラアイが忙しく動いた。対象はもちろん、イグニスとイーガルの後ろに控えていたタカシである。

「特別に許可が下りたから、いつもみんなが居る所を見せてやろうと思って」
「ここがサンクタム・フラットかあ・・・あっそうだエース、あけましておめでと!」
「はい? ああ・・・あけましておめでとうございます。今日は元日でしたね」

 急に挨拶を振られてキョトンとしたものの、そこはさすがデルタチームのブレインを誇るだけのことはある。すぐさま察して挨拶を返すと、タカシは嬉しそうににっこりした。

「姉ちゃんは仕事忙しいし、家に居てもヒマだからね。みんなに挨拶しに来たんだ!」
「あなたの・・・姉? ああ、しゅ・・・・・・、」
「修理中じゃなくて良かったよなあ! せっかくチビ助が来てくれたんだし!」

 納得したように言い掛けたエースの言葉にイーガルの大声が被さり、一同がギョッと彼の方を向いた。当の本人はと言うと、口元を引きつらせながら笑みを浮かべている。それを見てエースは過ちに気がつきハッと顔を背けた。友信アキラがGODの主任であることは重要機密なのだ。つい気を緩めて口走るところだったと内心冷や汗を流す。

「修理はマツウラさんがやるの?」

 しかし彼らの葛藤など知る由もないタカシは呑気なもの。あっと言う間に今のやり取りを忘れて次の興味へ移ってしまっている。だが、今回はそれが救いの一手。次々に頷く面々である。

「え、ええそうです。基本的に重要な修理やメンテナンスはマツウラさんが手掛けますね。その他の微細なものはテクニカルチームの方々がやってくれますよ」
「へえー、そうなんだ! 見たかったなぁー・・・」
「はは、メンテ中は立入禁止だぞ?」
「えーっそうなの? でもそっかぁ、そうだよね・・・その方が地球を守る防衛組織! って感じでカッコ良いかあ」

 小さな拳を握り締めて納得する少年の思考は、残念ながら他の面々には通じなかったらしく、互いに顔を見合わせては首を傾げ、また肩を竦めたりした。
 そんな最中。突如として響き渡るエマージェンシーコール! 同時にタカシの胸元につけられたロゴバッヂからもビービーと警報が鳴った。

『市街にパラサイダー出現ですよぉ! 場所はCブロック3−6ですっ、機動隊は早く向かって下さいですよー!』

 ミズキの声がビル内に響き渡る。くそっと小さく毒づき、イーガルはサッとビーストモードへ姿を変えると出口へ走った。青い後ろ姿を追うように、隅で寝ていたブローも立ち上がる。エースがイグニスへ視線を送り、彼が頷くや赤と緑の二体も出撃のため走り出した。
 残されたイグニスはと言えば、同じくぽつりと残されたタカシをどうするかと考えていた。だがその悩みを払うように、タイミング良くカシイがサンクタム・フラットの入口に姿を現した。無口だが気配りの利く彼のことだ。おおかた察してきてくれたのだろう。

「カシイさん! タカシを頼みます」
「ああ」
「えっ!? イグニス、僕のこと置いてくの!?」

 慌ててタカシが取り縋ろうと一歩踏み出すも、カシイとイグニスがそれぞれ肩を押さえたのでままならなかった。不満げに睨む少年を宥めるように、優しい声が降る。

「大丈夫。タカシはここでオレたちを見守っててくれ」
「ここで?」

 どうやって――とタカシが問うより先に、カシイが操作パネルに触れた。ヴン・・・という音と共に壁一面に現れるスクリーン。オペレーションルームのものほど大きくはないが、サンクタム・フラットにも同質のものが設えられているのだ。わあ! と声を上げる少年の頭をぽんと叩き、イグニスも駆け出した。


***


 ――ギャオオォン!!
 土煙を上げ倒壊する建物、逃げ惑う人々の足音、悲鳴。その中に混じって明らかに異質な咆哮が轟く。声の主はもちろんパラサイダーロボである!

「止まりなさい! これ以上の破壊は我々GOD機動隊が許しません!!」

 その行く手を阻むのは、銃を構えたエースと、

「ま、言って聞くような相手でもねえな!」

 真っ直ぐに突っ込んできた敵を受け止めるブローだ。
 組み合い、拮抗した二体の上空に青い疾風が走る。その残像が空に鮮やかな青を引いた後、バラバラと音を立て機銃掃射が降り注いだ。
 ギャアッ! 弾けるように吠え、跳び退るパラサイダーロボ。下がる足元に脅すようエースが弾を撃ち込む。ピタリと足を止めた敵の前にバイクを駆ったイグニスも姿を見せた。
 だが、素早く辺りを確認した彼は困ったようにエースを仰ぐ。

「カールズがまだ来てないな。合体したいんだけど・・・」
「それが、野暮用があるから少し遅れるとか・・・命令無視のくせに一人前の言い訳を、っ!?」

 イラついた様子で口を開いたエースに隙が出来、低く構えていたパラサイダーロボがここぞとばかりに跳ねた。飛び込んできたボディを間一髪躱すイグニスとエース。

「しまった、逃げるぞ!」

 慌てて振り向きイグニキャノンを構えたイグニスの視界には、

「逃がすかあーっ!!」

 敵の横腹に垂直に突っ込む黄色が。
 そのままゴロゴロと共に回転した二体はカールズが上を取る形で止まった。ギャアギャアと喚き散らすパラサイダーロボを押さえつけ、自慢の爪を振り翳す!

 チリー・・・・・・ン

「!?」

 振りかぶった腕が止まる。
 その隙をつき、パラサイダーロボは渾身の力でカールズを跳ね飛ばすとビルの合間を縫い走り去ってしまった。まるで風のように消えた敵を追うこともせず、身を起こした姿のまま呆然としているカールズにエースが駆け寄る。

「何してるんですか、逃がすなんてらしくもない!」
「・・・・・・う、うん、ごめん・・・」
「どうかしましたか? それにあなたの野暮用とやらは終わったんですか?」
「うーん・・・・・・」

 珍しく煮え切らない態度に首を傾げるエース。棘のあった物言いも何となく覇気を削がれて柔らかくなった。

「・・・何か、あったんですか?」

 俯くカールズに、ブローも無言で手を差し延べる。ひょいと立たされ、仲間の顔、それに心配げに佇むイグニスとイーガルを見渡して、カールズは無意識にかエースの腕に手を掛けながら言った。

「ミューちゃんが・・・どこにも居ないんだ。逃げたのかも知れないけど、毛布とかぐちゃぐちゃだし・・・それに」

 一旦言葉を切る。

「・・・・・・・・・さっき、鈴の音がした・・・。ミューちゃんにオレがあげた、鈴・・・・・・」

 ――まさか。イグニスとイーガルは顔を見合わせた。しかしその推測はあまりにも悲し過ぎる。二人のメモリーには、カールズの手のひらでのんびりと寝そべるネコの姿があった。そして友達なんだと嬉しそうに笑うカールズの姿も。

「あれは・・・・・・ミューちゃんなのかな・・・」

 消え入りそうな声でカールズが呟く。エースを掴む手は震えていて酷く痛々しかった。その手を握り返し、エースがしっかりと告げる。

「たとえそうだとしても、私たちは倒さねばなりません。」

 バッとカールズが顔を上げる。大きめのアイモニターには光が映り込んで揺らめいており、まるで今にも泣きそうに見える。

「倒す・・・ミューちゃんを!?」
「他に誰が居ますか? 私たちの使命は民間人を守ることです」
「いやだっ!!」

 バシッ! と叩きつけられた手を擦り、エースが顔をしかめた。

「ミューちゃんはオレの友達なんだ! オレ、エースみたいに・・・命令だからとか使命だからとか、そんな風に思えない! 思えないんだよ!!」
「カールズ!」

 呼び止める声も虚しく、カールズの姿もまたビルの合間に消えてしまった。しん・・・と戦闘の絶えた市街地が一層静まり返る。

「――なあ、エース・・・。カールズにとって、ミューちゃんは大切なんだよ」

 足元から聞こえた声に、エースは律儀に顔を向けた。予想通り切なそうな表情を浮かべたイグニスが見上げていて、視線が絡まる。彼の肩に手を掛けたイーガルは俯いたまま珍しく口を閉ざしている。

「・・・・・・分かっています。私にも、それは分かっているんです」

 くっと唇を噛んで、言う。じゃあ――と言い募ろうとしたイグニスもまた口を閉ざすしかなかった。友達だからといって、倒さないわけにもいかない。気持ちを上手く言葉に出来ず俯くイグニスと、彼に背を向けたエース。お互いを責めるつもりは毛頭ない。ただ、やるせないだけだ。
 そのどうしようもない感情は、モニターを通してサンクタム・フラットのタカシにも伝わっていた。そして小さく震えている肩を包むカシイの手も、やはり少し揺れていた。

「そんな・・・ミューちゃんが敵なんて、ウソだよね・・・? 倒しちゃったりしないよね・・・ねえ、おじさん!」
「・・・・・・・・・」

 くるりと身体を翻したタカシは顔を上げなかった。けれど小刻みに震える身体と、少年が顔を押しつけている辺りがじんわりと温かくなるのだから、泣いているのはすぐに分かる。小さな身体を優しく抱き締めてカシイも目を閉じた。
 出来ることならそんな運命はなかったことにしてやりたいと願いながら。
 すると突然、またエマージェンシーコールが鳴り渡った。ハッと顔を上げる二人の上をミズキの切羽詰まった放送が駆けていく。

『Dブロックにさっきのパラサイダーロボが現れましたぁ! 近くに団地があるんですっ、すぐに向かって下さあい!』

 通信機からの連絡にイグニスたちもみな拳を握り締めた。正月休みの今、団地は人で溢れているはずだ。まともに攻撃されれば失われる命の数は計り知れない。

「行こう!」

 仲間に、何よりも自分に言い聞かせる声音で叫ぶと、イグニスはバイクにまたがりエンジンを蒸かした。エースもブローを抱え、イーガルと共に飛び去る。

(倒さなくちゃ・・・そうでなきゃ、大変なことになる!)

 頬を切る風の冷たさを感じたような、気がした。


***


 戦闘の現場ではパラサイダーロボが猛威を振るっている最中だった。鞭のように尾を振るえば瓦や街路樹が弾け飛ぶ。逃げ切れずうずくまる子供を助けようと走る母親。それを見た敵がバネのように跳躍し襲い掛かった!

「マグネフィールド!」

 光が尾を引きパラサイダーロボの身体を包む。きつく抱き合う親子の元へ駆け寄ったのはイグニスだ。

「無事で良かった。警察の指示に従い、安全な場所へ避難して下さい。オレたちが必ず・・・守りますから」

 ありがとうと笑顔を浮かべる彼らを見送ったイグニスは次にマグネフィールドへ、その中に捕らえられた敵へ目を向けた。
 ――守らなくては。民間人を。守るべき人たちを。

「カールズは居ないけど、きっと合流してくれる。オレたちはオレたちで戦おう」

 その言葉に強く頷くのは後に続く仲間たち。次々にフィールドへと飛び込み、中へ降り立った。
 フィールドの中には、広々とした荒野が広がっていた。隠れる場所のない戦場で向き合うパラサイダーロボとGOD機動隊。ヒュウと砂埃を巻き上げ、風が吹き去った。
 ――刹那!

「ギャ―――――ス!!」

 雄叫びを上げ跳ね上がるパラサイダーロボ! しかし横腹から飛んできた攻撃が敵の身体を吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。攻撃を放ったばかりのキャノンを構えたイーガルへ片手を上げ、イグニスとブローが疾る。その間に起き上がり掛けたパラサイダーロボへ向け、イーガルとエースの一斉射撃が降り注ぐ。攻撃の切れ間を狙い、剣を翳したイグニスと拳を振りかぶったブローが――・・・、


「やめてよおおぉっ!!」


 突然の悲鳴に虚を突かれたGODの面々と、そして敵さえもが足を止めた。更に彼らが首を巡らす暇を与えず、パラサイダーロボとイグニスの間にカールズが両手を広げて立ち塞がる。彼のアイモニターは伝え切れない想いで輝いているように見えた。

「カールズ! どいてくれ!」
「いやだ、どかない!!」

 イグニスの叫びにきっぱり首を振り、彼は背に庇うロボットを振り向いた。

「なあミューちゃん、お前ミューちゃんなんだよな!? 頼むからもう暴れないでよ、オレたちにこれ以上攻撃させないでくれよ!!」

 じっとカメラアイ同士が見つめ合った。
 グルル――と低い唸り声を上げるパラサイダーロボだが、不思議と攻撃のそぶりを見せない。
 ――もしかして、本当に止められるのか?
 誰もがそう思った。その場にいたGOD機動隊も、サンクタム・フラットでモニターを見つめるタカシとカシイも、オペレーションルームで固唾を飲んでいるアキラたちも、警察と共に避難誘導をしていたマツウラも。
 そして、カールズ自身も。


「ギャシャアアアァァアアアッ!!」


 ハッとした時にはもう、目の前に牙があった。

「うわあああああっ!!」
「カールズ! ・・・喰らいなさい、ホーネットミサイルッ!」

 カールズを押し倒し、踏みつけて跳躍したロボットを追いミサイルが雲の道を引く。

「やめてよ、ミューちゃんが!!」

 悲痛な声で叫び身体を起こしたカールズの前で地面にビシビシと亀裂が入る。ブローが拳を思い切り打ちつけたのだ。その亀裂は着地した敵のバランスを崩させ、隙を生ませた。間髪入れずミサイルが次々に着弾する。上がる悲鳴と、轟音、白煙。

「ミューちゃぁああん!!」
「カールズ! ・・・倒さなくちゃダメなんだ、オレたちが!!」

 地を掻く爪の側でイグニスが叫ぶ。その上空をイーガルが飛び過ぎていき、倒れてもがくパラサイダーロボにキャノンの照準を合わせた。
 チャージが始まる。ブースターウィングが展開する。
 それを見て物凄いスピードで地を掴み、弾けたバネのように飛び上がるパラサイダーロボ。

「なっ、に・・・ぃい!?」

 ――それはあまりに一瞬の出来事。
 発射されたシュトロムキャノンを押し裂くほどの速度で飛び掛かられ、空中のイーガルには踏み留まれるはずもなかった。巨体と共に吹き飛んだ彼のボディは、マグネフィールドの壁にぶち当たってしまったのだ。押し破ろうとする敵と、させまいとする磁気壁の間に居るイーガルの身体は、凄まじい圧力と激しいスパークにさらされていた。

「イーガル、フィールドの外に出ろ!」
「だ・・・ダメだ・・・! 今俺が出れば、俺に触れているこいつまで一緒に出ちまう・・・!」
「でも・・・そのままじゃ潰れてしまうぞ!!」

 バチバチと弾けるスパークに負けない大声で叫ぶイグニスの声は、震えていた。

 ――倒したくない友達。
 ――倒れそうな仲間。
 ――願望。
 ――使命。

「このままでは圧壊してしまいます・・・もう一度私が!」
「待って!!」
 エースの腕にカールズが飛びつく。口を開き掛けた彼を制し、カールズは絞り出すような声音で言った。


「オレが・・・やるから。オレが倒すから・・・・・・お願い、手伝って。」


 エースとブロー、そしてイグニスの視線が集まった。

「分かりました!」
「任せたからな!」
「カールズ、頼む!」

 バヅンッ! 嫌な音を立てながらイーガルが壁を抜けた。AIが最早耐えられないと察し、無意識にフィールドから脱出させたのだ。それと同時に、パラサイダーロボの身体も外へと飛び出してゆく。
 外へ。人間たちの居る市街地へ。

「デルタチーム、フォームア―――ップ!!」

 空を裂き、疾るカールズの声。一直線に飛び出した三体の下を並走するのはデルタローダー。飛び降りてきたイグニスを運転席へ収め、エンジン音も高らかに飛び上がる。


「絆、信頼、拳に込めて・・・重ねよ心の絶対シグナル! イデルタ、激参ッ!!」


「せめて、オレが・・・・・・この手で倒す!!」

 空中で合体したイデルタの元へトリスカリバーが馳せる。
 柄を握り、着き掛けた足で地を踏み込むことなく、更にブーストを掛けて飛ぶ。
 地面すれすれを滑るように飛びながら、剣を構えた。

「ミューちゃん・・・ごめん」

 振りかぶった刃が、パラサイダーロボの胴を両断し。
 横に薙いだ剣筋は、その四肢を斬り落とした。

「ごめんね・・・・・・」

 最後、斬り上げた剣が首を刎ねて。
 断末魔もなく、ロボットの身体は、空中で爆散したのだった。


***


「うあああっ、ミューちゃん、ミューちゃんが・・・・・・友達、だったのに・・・・・・!」

 静寂が落ちたサンクタム・フラットに泣き声が湧いた。縋りついて泣くタカシの頭をカシイの大きな掌がぽんぽんとあやす。

「こんなの・・・ひどいよ、可哀相だよぉ・・・!!」

 喉につっかえた重りを吐き出すようにして、泉が湧くように流れる涙を拭きもしないでタカシは泣いた。
 同じようにカールズもまた、膝をついて土を掴み、俯いていた。泣くことの出来ない彼は涙を流さないけれど。

 ――ミャア。

 その時、どこからかネコの鳴き声が零れた。ハッと見回すと、植え込みの中から五匹の子ネコがころころと走り出てくるところだった。三毛とトラ地の子ネコたちはどことなく彼女に似ていた。

「ミューちゃんの・・・・・・赤ちゃん、なのか?」

 ミャア。りん。ミャア。じゃれ合い、転げ回りながらカールズの手の周りで遊ぶネコたちの鳴き声に混じって、かすかに鈴の音が聞こえた気がした。

「ごめん・・・ごめんなあ、ミューちゃあん・・・・・・うあああああ・・・・・・!!」

 泣くことの叶わないロボットではあるけれど。地に伏して声を上げるカールズのアイモニターは、まるで見えない涙で滲んだように曇っていた――。



To be continued...



→long
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -