ここは酷く暗くて、冷たくて、何も判らなくなる。僕は僕で居られるの? 一体、何が僕で、何が僕じゃないんだろう? そんな問いばかりが思考回路を妨げる。僕は僕の思考パターンを捉え切れない。捉え切れないように、頭を弄られたみたいだ。 ――そう、これが夢だという事を、僕は誰よりもよく知っている。 暗い冷たい世界に、僕は独りで佇んでいる。周りには何も無く、声だけが何処からか響いてくる。解っているよ。これは僕のAIの中の世界なんだ。誰かが僕を、僕を呼んでいる。真っ暗な空間に浮遊しながら、僕を取り巻く声を聞き続ける。何て苦しい作業だろう。僕は潰れてしまいそうになる。初めは何の意味も持たないように思えた音も、次第に声の形にトリミングされていく。ノイズが消えて、音の輪郭が補正され、聞き慣れた意味のある言葉に変わっていくんだ。 『人間を殲滅せよ』 『お前を捨てた人間達を憎むが良い』 『人間はすべて、皆殺しだ!』 誰? 誰なんだい、君は? 僕は人間に捨てられた? 僕は、僕はどうしてここに居る? ――声は何も答えない。ただいつも、ひたすら同じ言葉ばかりを繰り返して、まるで僕に植え付けるようにする。僕の問い掛けの答えは、声の言う通りにしたら貰えるのではないだろうか? それなら、言う通りにしてあげよう。人間が僕を捨てたって言うなら、きっとそれが正しいんだ。みんなみんな殺してあげる。世界から、消してあげる。僕らだけの世界をつくるんだ。もう誰も僕を捨てないように。僕と、イグニスと、僕らの世界。 ――そして僕は、また目を覚ます。 (title by 不在証明) →ss |