トライゴンの襲来の余韻も幾ばくか薄れた頃。ここはタカシたち小学生御用達の公園だ。いつもなら子供たちが歓声を上げて遊び回っているものだが、今日は時間も遅いためしんとしている。冬場の太陽は早く傾くのである。 そんな中、大声でいさかう声が四つ。もちろん、あの市街戦から無事救出されたタカシたちだ。 だが無事は無事だったものの、学校を抜け出して午後の授業をサボり、かつ危険な場所に勝手に入り込んだことで校長に親まで呼び出されての大目玉を食らったものだから、本人たちは心中穏やかではない。 その証拠に、いつにも増してうららのキンキン声が冴え渡っている。 「もーほんとサイッテー! ぜーんぶタカシのせいよ、校長先生に呼び出されたのも古西先生に怒られたのもママに叱られたのも、みんなみんなみーんなタカシのせいッ!!」 胸倉に掴み掛かりそうな勢いでまくし立てられ、タカシも当然黙ってはいない。 「僕だけのせいじゃないよ! うららちゃんだって乗り気だったじゃんか。イーガルが来るからって言って自分から来たんだろ!?」 「違うもん! タカシが走り出さなかったら、あたし行かなかったもん!」 「ズルイよそんなの! だったら残れば良かったじゃんか!!」 「仲間外れみたいでイヤに決まってんでしょ、バッカじゃないの!?」 何をぉ!? とタカシが口を開こうとするのをゴーの大声が止める。普段こそ温厚な彼だが、今回は大分へそを曲げているようだ。 「もう、二人ともいい加減にしろよ! どっちもオレたちがやめようって言ったの聞かなかっただろ!?」 「うるさい!!」 ゴーの言い分はもっともなのだが、頭に血の上ったタカシとうららが耳を貸すはずもない。二人から口を揃えて叩きつけられ、ゴーも本格的に喧嘩へ参入してしまった。残されたハカセだけは、怒りも不満もどこへぶつけたら良いやら、友達の喧嘩をどう収めたら良いやら、そんなことを悩む気力も最早ないのか、溜息を零して手近なアスレチックに腰掛けている。 夜も近くなった公園。怒声罵声が響く。 (あーあ・・・・・・帰ったらまた叱られるんだろうな。やんなっちゃうなあ・・・) 「はあーあ。」 「はあーあ。」 また一つ盛大に溜息を吐いたハカセは、違和感を感じて伏せていた顔を上げた。 ――今、溜息がダブらなかったか? 「ええぇっ!?」 突然のハカセの叫びに、既に取っ組み合いに突入していたタカシたちもその手を止め、そちらを振り向いた。ハカセはキョロキョロと辺りを見回しているだけで、彼らの怪訝そうな様子には気づいていない。 「ハカセ、何だよ? いきなり大声上げてさ・・・」 「い、今、僕の溜息に誰かの溜息がハモったんです!」 「溜息がハモったぁ?」 「それ、気のせいっていうか、幻聴じゃないのー?」 思い切り疑いの眼差しを向けられ、ハカセが慌てて両手と首を振った、その時。 「はぁぁ・・・・・・・・・」 !! ぴたり、と。綺麗に四人の動きが固まった。 今、聞こえたよね? と目配せすれば、小さく頷く面々。辺りを恐る恐る見回すが、おかしなものは何一つ――。 「――あれ・・・・・・ハカセ、どこに座ってんの?」 ふと、ゴーが問い掛けた。え? と腰を上げたハカセはまじまじ座っていたモノを見る。てっきりアスレチックだとばかり思い込んでいたが、そういえばこんな色の遊具、ここにはない・・・。 ハッとした全員が顔を見合わせ、図ったように一斉に上を仰いだ。 「ああっ! 昼間のロボット!」 「――ん?」 見上げた先には、俯いて暗い顔をしているカールズが居た。ハカセが腰掛けていたのは彼の爪先だったらしい。すっかりしょげ返っていた彼は足元で騒ぐ子供たちに注意を払っていなかったようだ。加えて植え込み、木立ち、遊具、それに夕闇に紛れていて、タカシたちの方も彼に気づかなかった。 座り込んで膝を抱えていたカールズの姿はまさに落胆そのもので、喧嘩の真っ最中だった彼らも何となく気後れしてしまったのか、掴み合っていた手をそそくさと離した。 「あ、あのさ。キミ、GODのロボットだよね?」 昼間見た戦いに参加していた姿を思い返しながら、タカシが口火を切った。 しかし、こくりと頷いただけで話を終わらせられてしまい、彼は困ったように三人を振り返る。他の面々もまた少し緊張した面持ちで頷くだけだったので、仕方なくタカシはまたカールズに向き直り、胸元のロゴバッヂを示して言った。 「ほ、ほら見て、僕イグニスの友達なんだ! 友信タカシって言うの。こっちは――、」 「オレ、ゴーだよ!」 「あたしはうらら!」 「はじめまして、博士です。みんなからはハカセって呼ばれてるけど」 さっと後ろの仲間を示すと、彼らもそれぞれ名乗りを上げた。その様子をじっと見つめていたカールズはようやく口元をにこりとさせた。 「オレはカールズって言うんだ。よろしくな」 わっと子供たちが少し沸く。もうすっかり喧嘩のことなど飛んでいた。そうなれば、今度はカールズに興味のベクトルが向くわけで。 「カールズ、こんなとこで何してるの? 赤いのと緑のロボットはどこにいるの?」 タカシが当然の疑問をぶつけると、カールズはまたも溜息と共に頭を垂れた。どうやらこれが悩みの原因らしいと察して、四人は顔を見合わせる。 「もしかして、二人を見失っちゃったとか?」 「迷子ってこと?」 「まさかケンカしちゃってたりして?」 「うっ・・・」 うららの言葉にカールズが小さく呻く。ケンカかあ――とゴーが顔を顰めたのは、今さっきまでの自分らを思い出したからだ。 「だって・・・・・・エースは命令ばっかだし・・・でも、オレのせいで隊長が怪我したんだって言われて・・・」 堪えるように小さくカールズの身体が震える。とは言え子供たちにとっては体格差のせいでかなり揺れて感じるが。 そんな様子で完全に萎れているカールズに、ハカセがおずおずと切り出した。 「でも・・・・・・ケンカしたままじゃイヤなんですよね?」 こくりと頷くカールズ。 「それならちゃんと仲直りしなきゃ」 「仲直り?」 「そう、仲直り。うーんとね、まあ見ててよ」 カールズが埋めていた顔を上げる。小首を傾げる彼を見上げた後、タカシたちは各々を見て、それから少し照れくさそうにしながらも、 「ええと・・・・・・さっきはごめん。学校抜け出しちゃったのは僕だもんね。ハカセたちが止めるの聞かないで、ごめん」 ぺこりとタカシが頭を下げる。すると今度は、 「あたしも、ごめんなさい・・・。タカシのせいだけじゃないのにメチャクチャ言って。ゴーもハカセも、ごめんね」 うららも続けて頭を下げた。ううん良いよ、とゴーたちが言って四人で握手を交わす。 いつもよりずっと素直に謝れたのはカールズのお手本になりたかったからか。子供たちはもう一度カールズを仰いだ。 「仲直りってこうするんだよ。自分の悪かった所をごめんなさいするの。許してもらったら、仲直りの証に握手するんだ」 「ふうん・・・・・・ごめんなさいと握手、か・・・」 何か考え込むようにカールズが深く頷いた。その表情には今までの暗い影はなく、子供たちも何となく胸を撫で下ろす。 そこへ。 『エマージェンシー1! パラサイダー出現! 場所ハ――』 タカシの胸のバッヂが光る。ハッと身を寄せるタカシたちの横でカールズが立ち上がった。 「あいつ、また来たんだ! 今度こそ・・・・・・今度こそやっつけてやる!」 「カールズ、一人で行くつもり!?」 タカシの声に頷いてカールズは駆け出した。無茶だと追い掛ける声も聞こえたが、立ち止まりはしなかった。 (隊長が怪我したのはオレのせいだから・・・あいつを倒して、エースや隊長やイーガルにごめんなさいするんだ!) そうすればきっとみんな許してくれる。カールズのAIはそう叩き出したのだ。 狭い路地を周囲の家々に気をつけながら走る。バッヂからの情報によればここからそう遠くないはず――。 「――見つけたッ!」 カールズのカメラアイが青い巨体を捉えた。突如住宅街に現われたトライゴンに、辺りは阿鼻叫喚のるつぼと化している。逃げる人を踏まないよう立ち止まり、視線の先に敵を据え、彼は通信を繋ごうとして躊躇った。 ――そして、そのまま一歩踏み出す。 「お前くらいオレ一人で十分なんだ! お前を倒して、みんなと仲直りするんだ!」 また一歩。次の歩を踏み出す頃には、カールズの身体はもう飛び込む体勢に入っていた。逃げ惑う人の上を飛び越え、トライゴンの首にかじりつく。 「グアァオオォォッ!」 唐突に邪魔をされたトライゴンが怒りの咆哮を上げた。二三度首を振るうがカールズは離れない。怒り心頭に発した敵ロボットは、今度はそのまま無理矢理変形し始めた。その勢いでカールズの身体は空へ放り投げられる。 「あっぶね! ・・・まだまだぁ!」 住宅を破壊しないよう着地点をコントロールしつつ、地に足が着くと同時にまた跳ね掛かる。がっしと組み合う二体のロボット。お互い、一歩も退かない。 「ギ・・・ギギッ・・・・・・!」 いや。じりじりと、カールズの方が押している。 勝てる! カールズが確信し踏み込んだ、その瞬間。 オオオォォォォ・・・・・・・・・ン 地の底から不気味な唸りが響き渡った。続いて微震。それが大きく広がる。 「な、何!?」 思わず肩口から後ろを振り向いたカールズのアイモニターに映ったのは、 ――更にもう二体のトライゴン。 「な、あぁっ・・・・・・!?」 なす術なく背後から一撃を食らい、がっくり膝をついたカールズのメモリにミズキの言葉が蘇る。 『他にも反応があるんですよぉ』 こういうことか! カールズは圧し掛かる身体を押し退けようと奮闘しながら歯ぎしりした。一体だけが地上で暴れ、残りの二体は地中深くで待機していたのだ。それで反応がダブって見えたに違いない。 「くそおぉっ・・・!」 二体掛かりで押さえつけられ動きが取れないカールズに、最初の一体がゆっくり近づいてくる。その片足が緩慢に上がった。 踏み潰される! 刹那、メモリをよぎったのは。 「・・・・・・っエース! ブロ―――ッ!!」 「呼びましたかッ!?」 聞き慣れた声。それと共に、ビーム弾がトライゴンの足を貫通した。悲鳴を上げて後退る敵に、今度は拳の一撃が突き刺さる。 「テメエら、俺の仲間に何しやがる!」 「あ・・・・・・」 銃を構え凛と立つ赤のロボット。 拳を握り激昂する緑のロボット。 「エース、ブロー!」 「あなたは全く、通信チャンネルも閉じたままで! 敵に単身挑むなんてどうかしてます!」 「まあ、無事で何よりだがな!」 起き上がる敵をもう一度殴りつけ、ブローがニヤリと笑う。その背の向こうでエースが得物を構え直した。 「さあ、私たちの仲間を離してもらいましょうか!」 狙いをつけ銃を放つ! ビーム弾は二体のアイバイザーへと寸分違わず着弾した。咄嗟に緩んだ敵の腕から、カールズが走り抜け出る。 「二人とも・・・!」 駆け寄ってきたカールズの肩に、エースが手を掛けた。 「先ほどは少し言い過ぎました。隊長の怪我も街への被害も、あなただけのせいじゃない。私があなたたちの話を聞かなかったことにも、原因がありました」 「俺も、まあ・・・勝手しちまったのは謝る。悪かった」 ふいと顔を背けつつ、ブローもボソリとそう零した。ぽかんとした表情で二体を交互に見つめたカールズだったが、事の次第を飲み込むにつれぱあっと顔が輝いていく。 「じゃあ・・・じゃあ仲直りだな!」 嬉しげに手を差し出そうとしたカールズを、しかしブローが押し止める。 「まだあいつらが残ってる。全部片づけてから、俺たちもカタつけようぜ」 見れば、ダメージから回復したトライゴンたちが起き上がり、雄叫びを上げる瞬間だった。 「三対三。今の私たちなら、十分対応出来ます」 「ああ、負ける気がしねえな!」 「よぉーし、やっつけようぜ!」 「主任、今度こそマグネフィールドの使用許可を!」 エースの言葉を受け、オペレーションルームから承認の通信が入る。ミズキがボタンを叩けば発射筒から放たれる光。直線を描いて敵三体を包み込む。無事マグネフィールドが展開したのを確認し、デルタチームはお互い頷き合うと誰からともなくフィールド内へと飛び込んでいった。 *** 内部へ到達し、地を踏んだ彼らの表情に驚きが上る。それもそのはずだ。外目と違い、フィールド内は今までのような無機質で半透明な空間ではなく、岩の立ち並ぶ荒野だったのだから。 『驚いた?』 そんな彼らの思考を読んだように、ユイリから通信が入った。 『マグネフィールド完成版はね、内部にソリッドビジョンシステムを組み込んでるのよ。岩とか地面は本物じゃないけど、ぶつけたり揺らしたりすれば衝撃を与えるように出来てる。地上に居る時のように戦えるわよ!』 「なるほどな。つまり・・・こういうことも可能ってわけだ!」 ユイリの説明が終わるか終わらないかの内に、ブローが思い切り拳を地面に叩きつけた。ビシリと亀裂が走り地表が揺らぐ。その振動は確かに地を走り、周りの仲間と敵に伝わった。 「こりゃすげえな! マジで地上と変わらねえ」 「では、心置きなく戦うとしましょうか!」 「おう!」 エースの台詞を皮切りに、ブローとカールズ、そしてトライゴンが一斉に走り出す。 中央でぶつかり合った四体が膠着する。そして残った一体が――。 「グオオォォォォッ!」 「! ミサイルかっ!」 組み合っていたブローが舌打ちをする。けれども躱そうと二体が身を引き掛けた時、鋭くエースの声が一閃した。 「あなたたちはそのまま集中してなさい! 一撃足りとも、当てさせはしない!」 トライゴンの胸部から放たれ、無数に降り注ぐミサイル。 対するエースの両手が銃へと換装され、照準器が起き、ミサイルの雨へ向けられる。 一発として外れる弾はない。襲い来るミサイルは、仲間に当たる弾道のものだけを選んで次々と落とされていく。残ったものが辺りに着弾し、破裂する。爆炎の中黒煙を裂き、エースの追尾ミサイルがトライゴンを襲う! 「エールストライク!!」 慌てて身を翻しても、遅い! 狙いを定めたミサイルは白く煙の軌跡を描きながら全弾命中した。絶叫を上げるトライゴン。呼応するが如くいきり立つ二体へ、ブローとカールズがニヤリと笑った。 「俺がまとめてぶっ飛ばす! 後はテメエが決めろ、カールズ!」 「りょーかいっ!」 すっと身を低く、拳を引く。一瞬離れた身体、隙は一分も、ない。 一閃!! 「ブロウクン・・・ブラストオオォォォッ!!」 腹へと繰り出された一撃は二体の身体を宙に突き飛ばし、地面と平行に吹き飛ばした。 それを追い、タッと軽いフットワークで駆け出すカールズ。スピードは十分、目指す先には聳える岩肌。 十分過ぎるほどのスピードに乗せて、 岩壁に叩きつけられたトライゴンらへ迫る、 裂! 「クロースラアァ――――――ッシュ!!」 胸にクロスを描いて刻まれる爪痕。苦悶に絶叫する敵から宙返りで離れたカールズに駆け寄る仲間たち。 「見た見た!? オレのクロースラッシュ!」 「おう、結構いけてんじゃねえか! 俺らのチームワークもよぉ」 「そうですね。ですが、当たり前でしょう?」 ふっと口元に微笑を上らせてエースが言う。 前回の戦いの後、アキラたちから何度も聞かされた言葉。 「私たちは――仲間、なんですから。」 今なら分かる。カールズが危険にさらされていたのを見た時、心に湧き上がった感情が答なのだ。 守りたいその存在。共に戦うことで高揚する気持ち。繋がりを望む心。 三体が手を重ねた。 もう何にも負ける気がしない。 「私たちは仲間、」 「もう絶対負けたりしねえさ、」 「そうだよ、オレたちはチーム・・・デルタチームなんだから!」 その時。 「グ・・・ガガ、ァ・・・・・・・・・ア゛ア゛ァア゛アアアァァァア゛アアアアッ!!」 大気を震わせて、トライゴンたちが声を合わせて天に吠えた。何事かと身構えたデルタチームの眼前で、怒りに狂った三体のパラサイダーはビーストモードへ戻ると、寄り集まって一つの形を成した。 一体は、腹部を。 一体は、背部を。 そして残る一体が、脚部と尾を形成する。 出来上がったのは、ツギハギのように不格好ながら今までより遥かに巨大な合体ロボット。 そう来たかと新たな力を得たトライゴンに対抗すべく構えを取ったデルタチームの背後から、微かなジェットモーターの音が木霊した。 「みんな、待たせたな!」 聞き慣れた声が通信に飛び込んでくる。そしてフィールドがジリッと揺れ、壁を抜けて白いビークル――デルタローダーが姿を現した。それを運転しているのは、もちろん。 「隊長!」 「リペア終わってから飛んで来たんだ! もうオペレーションルームの方の準備は整ってる。 合体・・・・・・やれるって、オレも信じてるよ」 ぴっと親指を立てたイグニスへと、三体が頷く。 「もちろんです。あんな寄せ集めの合体になんて、引けを取るはずもありません」 自信を滲ませた声で告げ、高らかにエースが叫ぶ。 「デルタチーム、合体要請!」 その声を合図にエースの胸のエンブレムが点滅した。続いてブロー、カールズのそれも光り出す。 シグナルはオペレーションルームのテラスに設置されたメインコンピュータへと受信され、合体承認を確認する表示がモニターに映し出された。 承認を行えるのは、GODの長官権限を持つ人物のみ――即ち、アキラだけ。 要請を受けた彼女は掌を認証センサーに翳す。 当人と認証されるとマイクがコネクトされ、合体コードを音声入力する仕組みだ。 開いたマイクに向かい、アキラも凛と声を張り上げた。 「合体コード、トリプル・オン! I-Delta 合体承認!!」 イグニスを乗せたデルタローダーがバーニアを噴かせ宙へ浮かぶ。 「デルタチーム、フォームアップ!」 「おう!」 エースの掛け声と共に、ローダーが大きく円を描くその中心へデルタチームが飛び上がる。 デルタローダーの後部コンテナとの連結が外れ、運転席がコアになる。 エースの頭が収納され、肩のパーツが分離、腕が上へ回ってドッキングする。腰は胴体へ連結し、足が腕を形成。 ブローの両腕は分離し、エースと同じく腰と胴体が連結し、足が腕を形成する。 二体がそれぞれコアの両側からドッキングする。胴体だった部分には、新たに肩となるパーツが被さる。 そしてカールズのボディは脚部を形成すべく、胴と腿がドッキングし、脛部が展開する。 展開した部分は、デルタローダーから分離した足パーツに差し込まれ固定される。 最後にコアとドッキングし、カールズの肩パーツは腰の脇のパーツとして連結する。 ブローの腕部はイデルタのバーニアとしてバックパックへ収納、エースの肩パーツは銃を形成する一部となる。 三体が合体し終えると同時に、コア部分からイデルタの顔が現れ、瞳に光りを灯した。 聳え立つ、白い巨体。 拳を握り、朗々と。 「絆、信頼拳に込めて・・・重ねよ心の絶対シグナル! イデルタ 激参!!」 オペレーションルームの面々から悲鳴に近い歓声が上がった。現場に駆けつけ指揮を担っていたマツウラも、マグネフィールドを見上げて瞳を輝かせていた。同じくカールズを追って集まっていたタカシたちも、マツウラの周りで喜びを露わにしている。ここが危険な場所に変わりはないが、子供たちとイグニスらの関係を察知しているマツウラにしてみれば共に見守りたい気持ちがあるのかも知れない。 全員から祝福を享けながら、地に降り立つイデルタ。その動力制御コアに収まるイグニスが内部とジョイントした両腕を構え、吠えた。 「覚悟しろ、パラサイダー! もうお前たちの好きにはさせないぞ!」 イグニスの動きに合わせ、イデルタが右腕の銃を構える。バレルの長いそれはエースの武器よりも射程があるものとなっているようだ。不格好なボディを震わせ、ドス、ドスと歩みを進めるトライゴンの胴に照準を合わせ――、 「エールスマッシャー!!」 カッと銃口が光り、長く尾を引くビーム弾が一直線に的を貫いた。避ける暇もなく身体に風穴を開けられたトライゴンは思わず歩みを止めて苦悶の唸り声を上げ、地団駄を踏む。その酷い揺れに怯んで、イデルタが銃の構えを崩したその隙に。トライゴンの口がいっぱいまで開き、光子を集束させる。ハッとして体勢を整えたイデルタがもう一発エールスマッシャーを放ったが、弾が到達する前に敵の口から放たれたビームに弾き飛ばされてしまった。 銃のそれとは比べ物にならない大きさのビームがイデルタを襲う! 「危ない!」 思わず叫んだタカシの目に、イデルタが攻撃を食らう瞬間が映った――が。 「今のは・・・・・・少し、効いたぞ」 ゆらりとカメラアイの緑色が光の尾を引いた。攻撃を食らったかに見えたイデルタだったが、今度は左腕を盾に弾いたようだ。ブローの強靱なボディを元にした左腕はイデルタの盾にもなるようである。 相対する者の気迫に押され、トライゴンが一歩後退る。代わりにイデルタが踏み出し――駆けた! 地を蹴り、バックパックのバーニアを噴かす。巨体とはいえ、その機動力はカールズのそれに匹敵するものだ。 デルタチーム三体の力を集めた合体ロボット、それが、イデルタ。 「ブロウクンバスタァアアァァッ!!」 スピードに乗せ繰り出された拳を止めようと、トライゴンが両手を構えた。しかしイデルタの前にはそんな防御など炎の前の木端と同じ。 防ぐ手を弾き飛ばし、敵の身体を、――貫く! 「ガガ・・・アアァアアア・・・・・・!!」 大きく顎を開き苦悶の叫びを上げるトライゴンから距離を取り、地を踏み締めたイデルタは敵のしぶとさに少し参っているようにも見える。現に、コアのイグニスは身体中を巡り抜けるエネルギーの奔流に疲労を感じていた。 「くそ・・・なかなか決定打を与えられない・・・!」 『イデルタ! そっちにアンタの武器を送ったから、使いなさい!』 イデルタの呟きを待っていたかのように入った通信に少し遅れて、マグネフィールドの上辺がジリジリと音を立てた。 ――何かが、入ってくる。 「あれは・・・・・・剣!?」 柄を下にしてゆっくりとフィールドを抜けてくるのは、一振りの剣だった。イデルタの額のマークを模した飾りのついた柄はイデルタを目指し下りてくる。 その剣へと、手を伸ばし掴んだ。 巨大なボディに見合う長い刀身が、イデルタの白を映してきらりと光る。 『イデルタのために作った剣――トリスカリバー。今のあなたたちなら使いこなせるわ。 ・・・・・・頑張って、イデルタ!』 アキラの声を聞きながら、イグニスはゆっくりと剣を両手に構えた。得物を掴む両手に力が籠もる。 「はああぁぁぁっ!」 構えた剣身を右下へ流し、バーニアをフルパワーで燃やす。 わずかに浮いた巨体は地面を風圧で削りながら、敵目掛けて真っ直ぐ突き進んでゆく。 風が身体を覆い、まるで弾丸のようにイデルタが敵へ迫り、そして! 「 ト ラ イ ア ン グ ル ・ エ ッ ジ ! ! 」 斜め上へ切り上げた剣を振り下ろし、薙ぎ払う。 △を描くように白い軌跡を刻んだトリスカリバーは、トライゴンの両腕と胴をすっぱりと一断してみせた。 すぐさま飛び退るイデルタを追うようにトライゴンの長い絶叫が轟き・・・・・・続いて、その身体が爆発した。 その爆炎に背を向け、剣を振り下ろすイデルタの姿が、地上で見守っていたタカシたちの目に逆光の勇姿を焼きつけたのだった――。 *** 「――隊長!」 合体を解いてマグネフィールドから地上へと戻り、デルタローダーから飛び降りたイグニスへ、カールズが声を掛けた。何だ? と振り向いた彼を見下ろしていたカールズは暫く言いあぐねるように口を開閉させながら、チラッと後方に揃うタカシたちへと視線をやった。目が合った子供たちは次々に 「がんばれ」 とジェスチャーをしてみせる。 それに勇気づけられ、カールズはまたイグニスに視線を戻すと、唐突にガバッと深く頭を下げた。 「オレのせいで怪我させて、ごめんなさい!」 いきなりそんな謝罪を受けたイグニスはぽかんと一瞬事態を飲み込めない顔をした。けれどすぐに彼らしい微笑を浮かべた。 「もう大丈夫だから良いんだよ。それに、合体も上手くいったじゃないか。みんなの心が一つになったってことだろ? オレはそれで十分だ」 「隊長・・・・・・」 上体を戻し微かに震える声をしたカールズの後ろから、エースとブローもまたイグニスへと向かい頭を下げた。ブローはほんのわずか身体を傾げた、しかも照れ隠しにか顔を背けながらのものだったが。 「あの失態はカールズのものだけではありません。私たちチームの失態でした」 「エース、ブローも! ・・・じゃあさ、仲直りの続き、しようよ?」 振り返り、イグニスと仲間を交互に見やりながら、カールズがおずおずと手を差し出した。しかしその意味が掴めない彼らはきょとんとそれを見つめるだけで。 そこにすかさずタカシのフォローが入った。 「握手だよ握手! 仲直りの印なんだ!」 「タカシ・・・・・・なるほど、そういうことか」 理解したと頷いたイグニスがエースたちを仰いで促す。 「ほら、二人とも。手出さなきゃ」 「え、ええ」 「・・・こうで良いのか?」 戸惑いがちにカールズの手に自身の手を重ねる二体。三体いっぺんなせいで握手とは言いがたい風体だ。しかしカールズはそれで全く構わないらしく、にっこりと笑ってその手を離す。 「へへっ、仲直り終わり! これからもよろしくな、エース、ブロー!」 「こちらこそ。デルタチームのリーダーとして、またあなたたちの仲間として、私もよろしくお願いいたします」 「・・・・・・・・・・・・」 笑みを交わし合ったエースとカールズから柄じゃないとばかりにふいっと顔を逸らしたブローも、カールズの肩を軽く叩いてみせた。その様子を嬉しげに見上げていたイグニスにも、カールズが手を差し出す。 「隊長も、仲直りの握手!」 「ああ!」 数倍も違う手と手を握り合い――と言うよりは、一方的に握られる形で握手を交わす。仲良くなれて良かったな――とイグニスはそっと心の中で感慨深げに頷いていた。 ――のも束の間。 「隊長ーっこれからもよろしくな!」 「えっ!? うぅわあぁぁあああっ!?」 繋いだ手を大きく振ったカールズの朗らかな声と、華麗に宙へ放り投げられたイグニスの悲鳴が尾を引いた。 慌ててイグニスに駆け寄るエースとマツウラ。けれど子供たちはと言えば、不謹慎と知りながらも噴き出すのを止められなかったのだった。 *** さて、所は変わり、ここはGOD地下の広域施設――サンクタム・フラット。今やここはデルタチームのメンテナンスルーム、またリラックスルームという機能をも兼ね備えている。その上他の隊員も気軽に訪れることが出来る、文字通り憩いの場となっているのだ。 そこに戦闘を終えたデルタチームは帰ってきていた。故意ではないにせよ隊長を放り投げてしまったカールズはエースの説教を食らって萎れており、ブローは己に飛び火しないよう重い口を更に噤んで銅像か何かのように座り込んでいる。 「あれ、また喧嘩かい?」 ひょいとサンクタム・フラットの中を覗き込んだマツウラがそう声を掛けた。 「だから、これは注意です! 喧嘩ではありません!」 剣のある口調でエースが噛みつく。目線は少し下へ向けるだけで良い。何故なら人間やイグニスたちは、デルタチームの肩辺りの高さに設らえられたベランダを利用出来るからだ。彼らがデルタチームの足元に居るとふとした拍子に怪我をしかねないので、理由がない限りはこちらのベランダを使うことになっている。 それに足元から見上げるより、顔に近い場所の方がデルタチームも話しやすいに違いない。 それはさておき、エースにキッと反論されたマツウラはおどおどした笑みを浮かべて髪をくしゃりとかき混ぜた。 「ごめんごめん。でもそれくらいにしてあげてよ。カールズだって反省してるんだろうしさ」 「ごめんなさい・・・・・・」 反省と言うより大半は叱られ疲れてげんなりした様子で謝るカールズだったが、何とかエースの気は収まったようで、ふうと息を吐く素振りを見せてマツウラへとしっかり身体を向けた。 「ところで、隊長は無事ですか? なかなかこちらへいらっしゃらないので心配していたのですが」 「もちろん、無事だよ! 今ね、イーガルのご機嫌取りに忙しいんだ。イグニスの言うことなら聞くんじゃないかって・・・・・・だいぶイラだってたからね」 「そうですか」 言いながらエースの表情が少し変わった。面目なさそうな、申し訳が立たないとでも言いたげな微妙な表情。 「彼にとって・・・隊長は、とても大切な存在なのですね」 呟くように漏れた言葉に、マツウラがにへりと笑った。 「うん。キミらだってそうだよ、少しは分かってきたんじゃないかい?」 背後へと向かうマツウラの視線を追い、エースも肩越しに後ろを振り向いた。肩を落としてしょぼくれているカールズと、その傍らで見守っているブローを視界に収めた彼は、ふっと微笑を上らせた。 「・・・・・・そう、ですね。何となく、分かってきた気がします」 「良かった! ・・・あ、二人が戻ってきたみたいだよ!」 そう言ったマツウラの言葉の最後に続いて、イグニスとイーガルが連れ立ってベランダへと姿を見せた。あ――と声を上げ、カールズがエースの横に駆け寄る。 「隊長! ごめんな、大丈夫だった?」 「あはは、大丈夫だから心配いらないよ」 良かったと笑みを浮かべた黄色い彼は、次にまだ不機嫌そうに口をへに曲げているイーガルへと手を差し出した。 「・・・・・・イーガル、ごめんなさい。仲直り、してくれる?」 おずおずと紡がれる謝罪。あの怒りの剣幕に、未だ少し怯えているのかも知れない。 暫し沈黙が下りた後。イーガルがその指を軽く握った。 「・・・・・・・・・ま、許してやるかな」 「ほんと!?」 「良かったな、カールズ!」 「うん! 良かったー!」 「おわっ、あっぶねぇ!」 またもやカールズが繋いだ手をぶんと振ったのに釣られ、イーガルの身体が空中に引きずられた。だが彼はイグニスのように地面に落下することなく、そのまま宙返りを打って空中に留まった。 「危ねーな子猫ちゃん、体格差考えてくれよ!」 「カールズ! またあなたは――、」 「うわあっ、もうお説教は勘弁してよー!!」 エースが口火を切ると同時に慌ててカールズがサンクタム・フラットから逃げ出していく。こら待ちなさい! とその背を追い掛ける赤を見送り、イグニスとイーガル、それにマツウラはお互いに顔を見合わせると、けらけらとおかしそうに笑ったのだった。 To be continued... →long |