そもそものはじまりの話。
私の職業はサービス業で、最近では珍しくもなくなった年中無休、24時間営業の店舗店員。
シフトは日勤だけとはいえ、休日はバラバラで、OLしている友達とは良くて月一、悪くて数ヶ月に一度遊びに行くくらいしか出来ない。
……ので、必然的に休日は一人で行動するのが私の普通。
今日も例に漏れず、平日の休暇を一人でブラブラ楽しんでいた。
某ローカルな情報誌に載っていたお洒落なカフェでランチをした後、お気に入りのお店で新作の洋服を買ったり色々眺めたり。
更にCDやゲームソフトも売っている複合書店に寄って、雑誌や漫画、小説などを何冊か購入し2階のゲーム売り場で友達その1が面白いと言っていたゲームを中古で買った。
すると結構良い時間になったので、併設しているコーヒーショップで最近ハマっているソイ・ラテをテイクアウトし帰路に着いた。
「あー、今日は良い買い物したわ!」
ソイ・ラテを飲みながら、上機嫌で我が家へ向かう。
今シーズンの流行だというスカートは買えたし、一目惚れのキャミソールはセール中と言うことで半額になっていた。
気になっていた漫画の続きは出てたし、小説に到っては何年も待ち続けた待望の新刊だ。
ゲームも友達いわく最高らしいし話を聞く限りでは面白そうなので、帰ったら早速やってみようと思う。
信号待ちの間も信号が青になって歩き始めても、自然と緩む口元を隠すこともせず、大好きな歌手のメロディを鼻歌で追っていたら、突然横から声をかけられた。
「あの、お嬢さん。ちょっとお時間よろしいですか?」
「え?」
何だろうと思い振り向くと、スーツ姿のおじ様がニッコリ笑顔で立っていた。
何かのセールスとかだと嫌だなぁと思いながらも、無視できなかったのは、このおじ様の顔が私の好みのど真ん中だったからだ。
……あと、二十歳くらい若ければ、だけど。
「……あの」
「ただ今、お嬢さんのような方を対象に街頭アンケートを行っているのですが、お時間有りましたら協力して頂けませんか?」
「アンケート……ですか?」
面倒だな、と言うのが正直な所だった。
そんな心情を読み取ったのか、おじ様はすかさず言葉を重ねる。
「はい。と言ってもごくごく簡単なものですので」
「はあ……、でも早く帰ってゲームもしたいし」
「5分も掛かりませんから……というか、お恥ずかしい話、まだ一人も回答を頂いていなくて……。人助けだと思ってお願いします!」
必死に食い下がるおじ様の姿は見ていて可哀想になってくる。
見た目が良い分、申し訳なさも倍増だ。
少しならいいかな、と思って「じゃあ」と頷くと、おじ様はそれはそれは嬉しそうにA4サイズの紙を差し出してきた。
「ありがとうございます!では早速こちらにご記入お願いします」
「ええと、何々?今日何か良い事がありましたか?……まあ、あったよね。はいっと」
「最近嫌なことがありましたか?……特にないかな。いいえ」
「貴方の見る夢はモノクロですか?カラーですか?……普通に色付きだったと思うけど」
「生まれ変わるならまた女性になりたいですか?……うーん、女でも男でも良いけど、せっかくだから男かな?」
「今、一番やりたいことは何ですか?……とりあえず、帰ってゲームがしたいです」
ああ、次で最後っぽい。
「えーと、“貴方はご自分が死んだことに気付いていますか?”…………え?」
何それ?どういうこと??
慌ててアンケート用紙からおじ様の顔へと視線を向けると、嬉しそうなニコニコ顔のまま、おじ様は「ああ」と頷いた。
「大抵の方はそこでペンが止まってしまうんですよ。……もっとも、気付いていらっしゃらない方を対象にしたアンケートですから、当然なんですけど」
「え?えっ!?」
「因みに、その質問はアンケート対象かどうかの最終確認も兼ねてます」
その言葉が終わるかどうかと言うタイミングで、目の前がふっと暗くなる……。
「お若いのに、交通事故とはお気の毒でした。それでは、良い来世を……」
最期に聞こえたのは、何故だかものすごく嬉しそうなおじ様の声だった。
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