素直になれない天の邪鬼
「んー、とれない…」
今、私は本棚にある一番上の段の、とある一冊の小説を取りたくて奮闘中。あまりにも暇だから、本でも読んで時間を潰そうかって思ったんだけど…
「後ちょっとなんだけどなぁ」
かといって誰かに取って欲しい、なんてお願いは自分のプライド的には許せないのだ。下らないプライドだとは解っているんだけど、昔から背が低いのが悩みで、こんな事を誰かにわざわざ頼むのも何だか馬鹿らしいし。
「うう…悔しい!」
「ほらよ、チビ」
「…!ゾロ!」
いつから居たんだろう。
何故か軽々と私がさっきまで苦戦しまくっていた本を取って、渡してくれた。余計な一言と共に。
「チビは余計!さすが178センチですねー、ロロノア・ゾロさん」
「お前はもうちょっと可愛らしい言い方出来ねーのかよ」
「悪かったですね、ふん」
そう、ゾロの仰る通り。
私は最高に意地っ張りだ。
例え心の中で感謝をしていても、言葉では思ってない事や嫌味をポンポン言ってしまう。私だって、本当は素直になりたい。
ましてや好きな人の前では…可愛くなりたいよ。
本当は素直に、ゾロにさっきのお礼を言いたいのに
「うっさい!こういう性格なの。ほっといて!」
「何だ、その本。…恋愛小説ぅ!?名前、オメェこんな本読むのかよ」
「うるっさいなぁ。勝手に見んな馬鹿!変態剣士!ゾロには関係ないでしょ!」
ああああ…何でこんな可愛くない言い方しか出来ないんだろう。本当自分で嫌になる。
「好きな奴とかいんのか?お前でも」
「は?」
「いや、そういうの興味なさそうに見えたから。」
「…失礼ですね、ゾロさん。私こうみえてもれっきとした女の子なんですけど?」
まーた、何でこんな嫌みったらしい言い方。ゾロは私の事理解してくれてるのか、突っかかってはこないけど。
「誰だよ」
「はい?」
「あのアホコックか?」
なんでそうなるのか…違うよ。
あんただよ。
まあ、こんな素直になれない性格じゃあ、気づいて貰えないどころかいつか本当に嫌われてしまうかもしれない。呆れられてしまうかもしれない。それは本当に嫌だ。
「違うよ。ていうかそうだとしても関係ないじゃん」
本当は大有りですが。
「ま、それもそうだな」
「うん、もう良いでしょ?どっか行って」
いやー、嘘。嘘です。行かないで。本当は行って欲しくないの。何でこんなに天の邪鬼なんだ。自分で呆れる。一層のこと誰か私を思いっきり殴ってくれ。
「ああ、邪魔して悪かったな。チビ」
ゾロは小さい子をあやすみたいに、ポンポンって私の頭を手で優しく叩いた。完全にからかわれてる。
「うっさい!馬ー鹿!」
ゾロは立ち上がると、ドアに向かって歩き出した。
ああああああああ行っちゃう!言え!せめてお礼をちゃんと言わなきゃ!自分の為にも、人としての礼儀としても!頑張れ自分。負けるな自分!
ここで変わらなきゃいつ変わるの?
勇気を出すんだ!
たった一言だろ馬鹿ヤロォー!!!
「ゾ、ゾ、…ゾロ!」
背を向けていたゾロが立ち止まって、此方に顔を向けた。
頑張れ、言うんだ。
「……り…がと」
「ん?」
「………ありがとうって言ったの!一回で聞き取れ馬鹿!!!!」
終わった。
何だこの言い方。
小学生か私は。
それでもあなたは笑顔で
「ちゃんと素直になれんじゃん。本ぐらいいつでも取ってやるから、今度から言えよ?チビ」
そう、言ったんだ。
「は!?うっさい!誰がアンタ何かに頼むか!ばーか!」
「へいへい」
やっと、本っっ当に少しだけど、踏み出せた一歩。こんなんじゃいつ気持ちを伝えられるやら。
でも、一つだけ決めた。
これからは、本が届かない時
頑張ってゾロにお願いするんだって。
素直になれない天の邪鬼
(…ゾ、ゾ、ゾロ!取って欲しい本が…)
(名前…今日は雨がふるのか?)
(うっさい!やっぱりいい!ばかぁ!)
(ハハ、冗談だ)
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