わたしの学生生活は常に身長を気にしている。これまでも、たぶんこれからも。
無駄に高い身長のせいで小、中学校では体育祭で重要な役ばかり。さらにまわりの男の子からはからかわれるし、小さめの女の子達からは羨ましい、羨ましいと絶え間なく言われていた。
さすがに高校に入ってからは男の子が伸びはじめて見上げる人もでてきたが、わたしより低い男の子だってたくさんいるし、やっぱり女の子の中では飛び抜けて大きいのだ。
唯一この無駄に高い身長を生かせたのはバレーボールくらいで、中学時代主将となってベスト8までいけたことだろうか。
次第にまわりより高い目線を気にしすぎて俯きがちに歩くようになってしまった。

「…はあ」


せめてあと5センチぐらい小さかったらよかったのに、そう思いながら下駄箱を開く。
今日はテスト期間前で部活は休み。校庭には人一人もいなくて学校全体が静かだ。


「あれ、名前?」


校舎から出ようとしたら呼び止められる。


「スガさん?」


そこにはスガさんが立っていて、すごい速さで靴を履き替えたかと思うと小走りでわたしに追い付き、一緒に歩き出した。


「いま帰り?」
「はい、図書室で勉強してたんですけど集中力切れちゃって」
「そっか、俺も教室で残ってたんだけど眠くてさあ」


そう言ってニッと笑って「勉強なんかより身体動かしたいよねー、部活もないし」と大きく伸びをする。


「わたしも、勉強ばっかりで肩凝っちゃいます」


スガさんと同じように伸びをするとスガさんの視線に気付く。


「……なんです?」


そう声をかけると無意識だったらしく、ハッと慌てて目をそらし苦笑いを浮かべた。


「名前はさ、なんでいっつも俯きがちなのかなあって」
「…え?」
「そうやって背筋伸ばしてる方がいいのに」
「……………」


わたしが押し黙るとスガさんが謝って顔色を伺ってきたから慌てて大丈夫だということを示す。


「わたし、もう少し背が低ければよかったのにっていつも思うんです」
「……………」
「昔からこんなに背が高くても、いいことなんてなかった」


だから無意識に縮めようとして姿勢が悪いのかもしれませんね、と笑ってごまかそうとスガさんを見れば、真面目な顔をしてわたしを真っ直ぐ見ていた。


「俺は名前の身長、いいと思うけどなあ」
「え?」
「だってスラッとしてるからスタイルだっていいし、綺麗に見えるよ?バレーだってその身長生かせるし」


――何よりも、女の子達の中にいたって、すぐ見つけられるじゃん?
スガさんのその笑顔とその言葉に一瞬フリーズすると、スガさんはもう一度ニッ、と笑う。
その笑顔に恥ずかしくなって思わず俯くと、


「ほら、だから背筋のばして堂々と!」
「っ!」


トン、と背中に触れた手のひらは暖かくて、思わず顔をあげるとばっちり目があって嬉しそうに微笑まれる。


「これからそれで、ね?」


そういうスガさんの顔はわたしよりも上にあって。
優しく頭を撫でられて、言葉を発せられないままでいると暖かい手のひらは離れていった。


「じゃあ、また」


気がつけば自分の家の前にいて、スガさんの家は逆方向だと記憶しているから送ってもらったことに少ししてから気付き、お礼を言おうとした時にはもうスガさんは少し遠くから振り向いて手を振っていた。
遠くにいるスガさんにも見えるように背筋をのばして大きく手を振った。





ハノイの塔
(検索:猫背のなおしかた)





20121205

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