翌日はプレゼントマイクによる普通オブ普通の英語の授業ののち、待ちに待ったヒーロー基礎学の時間だ。
華麗に普通に教室に入ってきたオールマイトに思わずみんなで感動してしまった。オールマイト直々に教えて貰えるなんて…!
強くなれるよう頑張ろう、と配られたコスチュームをぎゅっと握りしめる。
コスチュームは濡れにも強く通気性のいい素材を要望した。見た目はあくまで動きやすくて体のラインが出ないものを熱烈に希望したおかげで見た感じは普通の服に見える。ありがとうお母さん(の失敗談)。
ちょこっとセクシーな麗日ちゃんと百ちゃんのスーツをみて峰田くんが仏のような顔をしていたので冷めた目で見てしまった。
「名字のコスチュームも普通におしゃれでいいな!」
「上鳴くんのも普通の服!ってかんじだね、チャラさが全面に出てるけど」
「褒めてんのそれ!?」
上鳴くんと軽口を叩いているとふと視界に入る轟くんの姿。
左半身を封印したようなコスチュームだった。以前わたしの腕の氷を溶かしてくれた時は左手を使っていたから左半身は炎を使う方のはずなのに、それをすべて氷で押さえ込んでいるようにみえて少しゾッとしてしまった。
声をかけようと思ったけど授業が始まってしまった。
今回は対人戦闘で、ヒーローチームと敵チーム2名ずつに別れて屋内戦を想定した訓練。
…んん?まてよ?
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか!1名余るようですが!」
みんなそれぞれに疑問を口にする中で飯田くんがちゃんと聞いてくれていた。グッジョブ。
んんん〜〜〜〜!!!ともだもだしながら説明に入ったオールマイトが言うには、1チームだけ3人になるということらしい。
飯田くんの提案通り出席番号順にくじをひいていくと、引いたくじはBチーム。これまた飯田くんがAから順に並ぶよう指示してくれたおかげでみんなスムーズに自分のチームと合流している。
Bチームの所には大柄な男の子が立っていて、
「えっと、障子くん?だよね、よろしく!」
「よろしく頼む」
マスクをしている彼の表情は伺うことができないが、なんとなく包容力を感じて落ち着いてしまう。
彼は体力テストの握力測定でその逞しい腕三本を使って540kgという結果を残している。いやもう個性ってのもあるけど普段の鍛えでしょ。腕の筋肉とかちょっと触ってみていいかな。
彼と2人でどうやって戦おうか、と考えていると後ろに人の気配が。
「お前らがBか。3人だな」
「轟くん」
Bと書かれたくじを持って立っていたのは轟くんで、彼と戦ってみたかったわたしは少し肩を落とした。
「ヒーローにしろ、敵にしろどうやっていこうか」
「関係ない。俺が全部片付ける」
「いやそれだと…、?」
チームワークの意味がない、と反論しようとして彼を見ればどこか一点を見つめていて、その瞳には仄暗い何かが奥深くにちらついていた。
思わず口を噤んだところで1戦目の組み合わせのクジが引かれた。
正直それよりも轟くんの表情のほうが気になったが組み合わせもなかなかだった。
かっちゃんと緑谷くんの対戦。
オールマイトの指示が終わったところでセッティングに行く爆豪の肩を掴んだ。
「ねえ、かっちゃん」
「…んだよ」
「これは授業だからね、手加減しろとは言わないけどやり過ぎちゃダメだよ」
「るせえな、せっかくあのクソナードをブッ潰せんだ」
「それがダメって言ってるの!」
離せよ、とわたしの手をはじいた爆豪はそのまま行ってしまった。
完全に余計なことしたなコレ、と反省しながら地下のモニター室へ向かった。
「おう、名字。お前爆豪と知り合いなのか?」
「親同士が仲良くてね、中2の時わたしは引っ越しちゃったんだけど緑谷くんとも同じ中学だよ」
「お前んとこの地元3人も雄英合格者だしてんのかよ、スゲーな」
「ね〜、わたしもびっくり」
へらりと切島くんに笑顔を返して一緒にモニターを眺める。ちょうどヒーローチームは建物へ潜入したところで、肝心の核兵器のところには飯田くんしかいない。…突っ走ってるな、あのツンツン頭。
直後に画面いっぱいに広がる爆風。明らかに緑谷くんだけを狙った攻撃で、私闘にもほどがある。
明らかにやりすぎだし、切島たちも止めるべきだ、とオールマイトに訴えかけているが、唯一むこうの音声を聞くことのできている彼は止めようとしない。
ハラハラとした展開が続く中、ヒーローチームふたりの連携によって核を確保という結果で幕を閉じた。
自分の攻撃動作でボロボロになった緑谷くんの姿を見て、やはり彼には個性があることを再確認することとなる。
講評は百ちゃんがあまりにも正論をズバズバ言うので爆発ボーイがキレるかと思いきや大人しく聞いている。
気にしているうちに次の組が発表されていた。私たちのチームがヒーローだ。
「障子は索敵を頼む」
「わかった」
敵チームが5分の準備をしてる最中、かるく作戦を立てようとチームで集まる。
「名字は壁挟んだ他の場所にも雲は出せるのか?」
「出せるけど雷当てるとかは厳しいかな…核もあるし」
轟くんが振り返って私を見れば、塞がれている左半身に目がいってしまう。
「雲だして注意を逸らしてくれ。あとは俺がやる」
「え?俺がやるって、」
そんな大雑把な決め方ある?と言おうとしたところでスタートしてしまった。
そのまま会話もなく屋内へ潜入する2人。
「4階北側の広間に1人、もう1人は同階のどこか…素足だな…」
難なく索敵をこなす障子くんの言葉を聞いて(おそらく)透ちゃんの居場所を炙り出すため雲を4階の通路に出現させる。
このまま雨を振らせれば透ちゃんの位置は確定する、と思ってた矢先、
「外出てろ、危ねえから」
と、1歩を踏み出す轟くん。
え?と思っていれば障子くんは無言でわたしを抱えてビルの外に出た。
「ちょ、障子く、」
突然の浮遊感に驚いて障子くんの方を見ればビルから冷気が漂ってきて、視線を戻せばビル全体が凍っている。そんなのアリかよ。
地面に着地した時点でチームの勝敗は確定していて、ただただみんな轟くんの個性に圧倒されていた。
わたしは勝利に喜ぶよりも自分の貢献度が無いに等しいことに拳を握りしめた。
「名前ちゃんの雲は囮だったのかーー!気取られた瞬間に足凍って痛かった!!」
みんなの所へ戻ればブーツを履いた透ちゃんが悔しそうに地団駄を踏んでいた(たぶん)
気を取り直して他のチームの対戦を見ていてもさっきの轟くんのワンマンプレイが解せないのと、そうさせるほど頼りにされなかった自分の弱さが心に影を落としていた。
20200916
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