個性ありきの体力テスト。わたしの個性を生かせるのは立ち幅跳び、ボール投げくらいかな…?
どう応用していくか考えていると視界の端に深緑のモサモサ髪が目に入った。

「…っえ!?」

見覚えがある。爆豪たちの後ろをいつもついて行っていた男の子。

「緑谷くん…?」
「彼と知り合いなの?」

隣にいた梅雨ちゃんが首を傾げて聞いてくる。

「うん、いやでも…え?…無個性のはずじゃ…」
「ケロ…?」

いくらなんでもここは雄英だ。無個性で合格できるわけがない。
その証拠に彼は50m走では爆豪の爆発に巻き込まれ、他の競技でもごくごく平凡な結果しか残していない。競技と個性の相性があわないだけなのかもわからない。

「ね、ねえ、かっちゃん」
「あ?てめぇさっきの謝れやコラ」
「あれって緑谷くん…なんだよね?」

投げ終わった爆豪に円の中に立つ姿を指さしながら問えば明らかに不快を表す顔。

「あいつ…クソナードが…クソが…!」
「相変わらず頭はいいのに語彙力皆無だね」
「あァ!?」
「にしても緑谷くんは無個性だったよね…わたしが引越してから何かあったの?」
「しらねえよクソが!」

爆豪の怒りはひとまず無視して緑谷くんのほうを見れば意を決したようにボールを投げる。
ボールはあくまで普通の男の子が投げる程度の距離で落ちた。
想定外だったのか驚愕する緑谷くんの元へ相澤先生が近づいている。あれ髪がなんほんわりオールバックなんだけど意外とかっこよくない?
緑谷いわく先生はイレイザーヘッドだったらしい。親が何回かその名前を出てたのを聞いたことがあるな。

「なんか話してる?もう1回あるよね」
「指導を受けていたようだが」

飯田くんも頭にはてなを浮かべている。
見守ることしかできないわたしたちのことは露知らず緑谷くんはなにやらブツブツと呟いている。そういえば昔からブツブツ言ってたな。
そうしてまた意を決したように、どこか不安そうに投げのモーションに入る。途中までは一緒だけどボールは先程とは比べ物にならないほど飛んで行った。

「おお…!?」

麗日ちゃんが隣でかわいらしく喜ぶ中、わたしと爆豪だけがありえない、という表情を浮かべている。爆豪にいたってはキレ散らかして緑谷くんに掴みかかろうとしていたけど。

無事全種目終わって蓋を開けてみれば除籍はウソ。わたしの順位は4位。他の推薦組2人はツートップなのに情けなくて、緑谷くんのこと考える前に自分のことを考えるべきだった。
爆豪に負けたのが悔しくて彼を見れば未だに緑谷くんを睨みつけていた。

.

着替えが終わって教室へ戻る途中、保健室へ向かうモサモサ髪を見つけた。

「緑谷くん!」
「!?えっ…えっと…」
「わたし、名字。覚えてない?」
「お、おぼえてるよ!」
「まさかいるなんて思わなかったからびっくりしたよ〜」

一応は顔見知りなはずなのにめちゃくちゃキョドっててぜんぜん話せそうにない。個性の事とか色々聞きたかったけど…と下に目を向ければ腫れ上がった指。

「あ…ごめん、リカバリーガールのとこ行く途中だったよね」
「だ、大丈夫…!」

また今度話そうね、お大事に。と彼の姿を見送る。

そのまま教室へ戻れば先生の姿はなくて、教卓にプリントの束が置かれていた。黒板を見るとプリントを各自取って下校するよう指示があった。入学式は?
まだ大多数は着替えから戻っていないらしく教室にはあまり人がいなかった。どうせなら、と思ってプリントの束を手に取ってそれぞれの机に置いていくことにした。

「はい、これ」
「お!サンキュー!わざわざ配るなんて良い奴だなお前!」

赤髪を揺らしながらお礼を言ってくれたのは切島くんというらしい。

「名字だよな?お前の個性も強ぇな、雲でなんでもできちまいそうだった!」

持久走で雲に乗ってたのはちょっと羨ましかったな!と言われて真面目に走ってる皆の視線が痛かったのを思い出してしまった。雲を出し続けるのも結構疲れるからゆるしてほしい。

「切島くんはガッツがすごかったね」
「俺の硬化は対人だと強ぇんだけど他ではあんまり目立たねえんだよな」

手を硬化させてぼやく彼はわたしの手にあるプリントの束を見ると引き止めたことへの謝罪と手伝いを申し出てくれた。あと少しだからとお礼を言いながら断るとまた色々聞かせてくれ、と笑顔で言ってくれた。

全員分配り終えて席に戻るころにはある程度みんな戻ってきてちらほら帰宅する人もでてきていた。爆豪は秒で帰ってた。めちゃくちゃ機嫌悪かったから誰も話しかけてなかったけど孤立しない?大丈夫?

ふと廊下を見ると帰路につこうとする轟くんの後ろ姿を見つけた。慌てて近くにいた女の子たちにまた明日ね、と告げて教室を出た。歩きながら自分の鞄を漁って丁寧にラッピングしたものを取り出して靴を履き替えたところのツートン頭に声をかけた。

「轟くん、これ」
「…?なんだ?」
「ガイダンスの時に貸してくれたハンカチ」

ちゃんと洗ったから大丈夫だと思うけど…、と差し出せばお礼を言って受け取ってくれた。

「轟くんの氷、汎用性高くてめちゃくちゃいいね」
「名字の雲も応用きくんじゃねえか?風、雨、雷、雪全部操れるんだろ」
「ん〜うまく活用できなかったからこれから強化してこうとおもう…」

体力テストも4位だったし…と頭をかけば十分だろ、とはげましてくれた。やさしい。
なんとなく一緒に帰る流れになってしまったが向こうも嫌そうではなかったので隣を歩く。
推薦試験の障害物レースの感想だったりを主にわたしがしゃべって轟くんが相槌を打つ感じになってしまった。あんまり話すの好きじゃないのかな…

そうこうしてるうちに自分の家の前になってしまった。

「あ、わたしの家ここなんだ」

一緒に駅まで向かうと思っていたらしい轟くんの顔がすこしびっくりしていた。

「家が遠くてね、一人暮らしなの」
「…そうか」

お互い別れを告げて歩き出す轟くんの背中を見送っていると、轟くんは歩みを止めて少し考え込んでから振り返った。

「なんかあったら連絡しろ」
「え?」
「女の一人暮らしは危ねえから」

そう言うとじゃあな、と返事を待たずまた歩き始めてしまった。
肝心の言われたわたしはというと、小さい頃から他の子より少しばかりやんちゃだったせいで男の子に女の子扱いされることに慣れていない。顔が熱くなるのを感じて慌てて家に飛び込んだ。いやべつに、むこうはそんな感じで言ったんじゃないぞ、落ち着け。




20200607

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -