考えても答えはない。
それから2日経った。
まだ怪我のせいで十分に動けない私を申し訳ないことに幹部の方々がわざわざ世話してくれている。
よく来るのは新八で、お前が復帰しないと毎日まずいメシ食わなきゃならねえ、と愚痴をこぼしていた。
どうやら"私"が食事を請け負っていたようだった。
(…この時代の台所、扱えるかな)
などとぼーっと考えていると襖の向こうから控えめに声がかけられた。
「……名前…?」
「!、はい!」
返事をするとそこには平助が。
バツが悪そうにしてる顔はあの日私について説明したとき無言で出ていったせいだろうか。
(今日新八も左之さんもいないって言ってたもんな…)
平助にこんな顔させてしまうのは、正直心苦しい。
「…メシ、持ってきた」
「あ、ありがとう…」
起き上がろうとすると膳を置いて背中に手を添えて手伝ってくれた。
もう一度礼を言ってしっかりと膳の前に座る。
…空気が重い
居づらいな、そう思いながら箸を取ろうとしたとき、意を決したように平助がこちらに向き直った。
「あ、あのさ…」
「!」
「この間は…その…ごめん!」
効果音がつきそうなくらい勢いよく頭を下げられた。
「俺…いろいろ考えたんだ…
確かにここにいるお前は"名前"じゃない……けど仕草も振る舞いも…当たり前だけど見た目も…全部"名前"なんだ」
ゆっくり頭を上げたと思ったら真っ直ぐ見つめられる。
なんて真っ直ぐな目なんだろう。私がいたところ…現代にはこんな目をした人間なんていなかった。
「だから…その…」
一度目を伏せてまた目を合わせて、
「まだ…記憶がないお前に慣れたわけじゃないし…でも…」
「………」
「やっぱり名前は名前だ」
思わず箸にとっていたお浸しを落としてしまった。それに気づいた平助が拭くもんもってくる!と部屋を飛び出したのが数秒後で、我に返ったのはそのまた数秒後。
ここの人たちは申し訳なるくらいに優しく受け入れてくれた。急に記憶が…というよりほぼ別人となってしまった私を仲間と言ってくれる。
それに対して私は何ができるのだろうか。わからないけど、
(今できることは…傷を治すことだけ)
傷を治す、と言っても…ものすごく傷の治りが早い。新八が昔から治癒力はすごかったと教えてくれてたからそんなには驚かなかったけど、前の自分では考えられないほど塞がりが早い。
「名前ー!拭くもん!持ってきた!!」
「…!ありがとう」
礼を言うと得意気な顔をして笑うもんだからすごくかわいい。そこにはもう最初みたいな居心地の悪さなどなく、なんとなく本当はこうやって接していたんだなあ、と感じる。
つられて私も笑うとさらに笑みを深めるからお互いニヤニヤニヤニヤしてる状態になって、ちょうどその時新八が入ってきて、
「お前ら…気持ち悪ぃ」
とだけ言って片頬をひくつかせていた。
ここから始まる
(いつか返せたらいいな)
(この優しさを)
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もう平助は大丈夫。
20120307
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