ただ戸惑うばかり。
あれから半刻後。
だいたいの"名字名前"の素性を聞いた。
名字名前。
ニ番組組長補佐。
試衛館の練習試合の帰りに山賊に襲われかけている所を試衛館の人たちがこれを助けて身寄りのないこの人を試衛館へと連れていった。
なぜか剣術を心得ていて剣の腕は平助と並ぶほど。
素性を話したがらず新選組にも話していなかったらしい。
(過去のことって…なんだろ)
一通り聞いたが謎は深まるばかり。
「…名前、本当になんも覚えてねえのか?」
ちなみに幹部たちは隊務へと戻り部屋には私と2番組組長永倉新八だけとなった。
「…ごめん、なさい」
正直ものすごく申し訳なかった。
今の私は彼らがずっと一緒にやってきた"名字名前"じゃないんだから。
「そんな謝るなって!忘れちまったモンはしょうがねェんだ」
「う、ん…」
俯いた私の背中を元気づけるためにバシバシたたいてきた。彼なりの気遣いだと思うとありがたかった。多少痛いけど。
「…あの、」
「なんだ?」
「わたし、みんなのことなんて呼んでました?」
さっきは平助を呼び捨てで呼んじゃったけど…もしかしたら違ったかも。
一応組長と組長補佐だし。
…という私の考えは違ったみたいだ。
「その前によ、その敬語、なんとかできねえか?」
お前に敬語使われると気持ちわりーな、と言われた。
どうやら新選組幹部とは仲が良かったらしい。
確かに試衛館時代からの付き合いならそうだろう。
それとな、とどこか照れ臭そうな顔で続ける。
「自分で言うのも何だけどな、俺とお前は兄妹みたいなモンだったんだ」
「兄妹…」
呟くわたしを見る目がすごく優しい。頭に大きくて暖かい手の感触。
「だからそんな気ィ遣うなよ。忘れててもお前はお前だ、名前」
「あ…ありが、とう」
「かわいい妹分が困ってんだ。助けんのが兄貴分の俺の務めだろ!」
そのままおもいっきり頭を撫でられて髪はぐしゃぐしゃ。
髪通り越して頭皮まで刺激されるもんだからたまらない。
「う、わっ…!」
「はっはっはっ!」
「ちょっ…やめっ…!…ぱっつぁん!」
「!!」
驚いた新八の手が止まる。
それに驚いてわたしの手も止まる。
「名前、お前…今、」
「……え?」
「名前…」
名前?何か変なこと言っただろうか。
「ぱっつぁん、て…」
「あ」
そういえばするりと口から出てきた…けど……違ったのかな…
少しばかり焦る私を余所に新八の顔はみるみる明るくなっていく。
「久しぶりに言ってくれたな!お前新選組になってからずっと新八って呼んでたのによー!!!」
「ぎゃ!!!」
がばっ、と抱きつかれた。筋肉が全部のしかかってきて重い…
けど、なぜかその温かさに安心した。
与えられたぬくもりに
(どれだけ救われたかなんて、)
――う、苦しい…
――新八!何やってんだてめェ!!
――名前ー!大丈夫か!?
20120218
<