冷静さが欠けている。
…頭が追い付かない。
今わたしの目の前には薄桜鬼の新選組幹部メンバーが大集合。
それぞれが私に巻かれている包帯を触って大丈夫かどうか聞いてくる。
もう一度確認しておくと私は江戸時代の人間でもない。ましてや新選組とは知り合いではない。
「……………」
「どうしたんだよ、名前」
いつまでもポカンとしている私に違和感を覚えたのか声をかけられた。
その声を辿ると、藤堂平助。
「まだ意識はっきりしてねえの?」
「へ、いす…け」
「…名前?」
目の前で手をひらひら動かす彼の名前を呟いてみると、急に頭に大きい手が乗った。
赤い…原田左之助。
「大丈夫か?」
「…………わたし、」
「ああ、お前…巡察中浪士から女の子守ろうとして頭殴られたんだよ」
そんで川に落ちたってわけ、と平助が教えてくれた。
だから頭痛いのか。
……じゃなくて
「巡察…?」
なぜ私が巡察なんか、ていうか新選組の隊務に?
しかも幹部勢揃いでお見舞いときた。なかなかの立場に違いない。
わけがわからない。
「…ねえ、さっきからどうしたのさ。やっぱり頭の打ち所悪かったの?」
その声は、やっぱりというか、沖田総司。
どうしたのって言われても私がいちばん知りたい。
「わか、んない」
「は?」
「わからない、です」
一斉に浮かぶはてなマーク。
平助に至ってはもはやアホ面。
「おい名前…お前、」
沈黙の中から出た声は、土方歳三。
「記憶が、ねェのか」
「!!」
一気に騒めく幹部たち。
どう答えればいいものか。
この世界の記憶というか生活した覚えはないし、記憶ならもとの世界のならある。
「でもさ!名前、俺の名前呼んでたじゃん!」
「頭に強い衝撃を与えられると、一部の記憶が飛ぶと聞いたことがあります。名字君は、恐らくそれでしょう。」
平助の反論に穏やかな声で推測したのは山南敬助。まだ腕は怪我をしていないみたいだ。
(…ってことは千鶴はまだ来てない…?)
そんなことをぼんやり考えていると土方さんに名前を呼ばれた。
「名前。…実際どうなんだ」
まだ混乱はしてるけど、正直に話したほうがいいのかもしれない。
「みんなの名前はわかるけど…それ以外は全く」
「!!」
「…それと、…………。」
みんなの知ってる名字名前とここにいる名字名前は別人です、とはさすがに言えなかった。きっと誰も信じてくれないし。
っていうか、私の知っている新選組に"名字名前"なんていなかったはず。
(どういうこと…?)
とりあえずは彼らの知っている"名字名前"を知る必要があるようだ。
「……あの、」
騒めいていた室内が静かになった。
気違いじみた質問
(私は)
(何者ですか)
20120218
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