まさかこんなことになるなんて。






キンキラキンに出会ったあの日、結局わたしは雨やどりをすることも叶わずにびしょ濡れになって帰宅した。
ぎりぎり雨から守り抜いた総司のお菓子を渡し、そこで土方さんに捕まって頭をガシガシ拭かれ、痛みに声をあげたら「そんな薄汚ねェびしょ濡れの格好で歩く馬鹿がわりい」って逆に怒られて。
その様子を三馬鹿が爆笑しながら指差してるのを見てあいつらいつか呪ってやると思いながら土方さんの説教兼お世話を受けた。



そしてそれから半日が経ち、陽がてっぺんに登ったこの時間になっても布団の中にいた。


「けほ、」


そう。風邪をひいてしまったのだ。
朝起きて朝餉の準備をしようと思ったら、目眩が止まらず派手に倒れた。
その音を聞き付けた新八が床に這いつくばる私の姿を見て慌てて私を抱き上げて医者の元へ走ろうとしたのを左之さんが止めたのはだいぶ前だ。
「自業自得だくそったれ」とか言いながらも今日1日非番をくれた土方さんに感謝しつつも1日布団の中で寝るのも苦痛なことにちょっと前に気づいてしまった。

「暇だなあ…」


身体が熱くてすこしぼーっとするけどもう寝る気にはなれず天井を見つめている。
平助は巡察に行ってしまったし新八は私がいない分(と言ってもあまり役には立ってない)二番隊の面倒をみているし、左之さんはなんか忙しそうだった。
一くんはさっき部屋から出ようとしたところで見つかって部屋に石田散薬とともに放り投げられたから相手などしてくれないだろう。
総司は…まあ、あれだ。
土方さんなんて確実にキレる。

ううん、近藤さんかなあ。近藤さんいるかなあ。

とか思ってるうちに部屋の前に人の気配がした。


「名字君。入りますよ」
「あ、はい!」


そう言って静かに襖を開けて入ってきたのは山南さんだった。


「昼餉をお持ちしました、食べられそうですか?」


見ればおいしそうなおかゆ。


「いただきます!」


おいしいおかゆの味を堪能しながら山南さんに話しかける。


「すみません、わざわざ持ってきていただいてしまって」
「いいのですよ、どうせ総長など暇ですしね」


とにっこり言われてどう返していいのかわからず少し黙ってしまった。


「熱は、もう大丈夫ですか?」
「あ、はい!だいぶよくなりました」


迷惑かけてしまってすみません、と頭を下げるとぽん、山南さんの手が頭に乗せられて優しく頭を撫でてくれた。


「名字君はいつも働きすぎと言ってもいいほどよく働いてくれてますよ。たまに休んだくらいで誰も文句なんて言いません」


と、いつもの皮肉が全くないくらい優しい声音で言ってくれたから、顔を上げてありがとうございます、と伝える。

…嬉しいけど、山南さんの言っている"名字君"はわたしじゃなくて、この時代のわたしなんだろう。

とぼうっと考えていると、不意に山南さんの顔が真剣な表情に戻った。


「…もう"慣れました"、か?」


その言葉を聞いて一瞬思考が止まる。

この言葉は"わたし"に向けられている。山南さんはわたしの話を信じていてくれたのだ。信じて、そして"わたし"を心配してくれた。

なんだかそれがすっごく嬉しくて、ましてやまさか山南さんがわたしの心配をしてくれてるとは思ってなくて。


「………まだ、わからないことはありますけど、毎日が楽しいです。

それも全部みんなのおかげです」

そう伝えると山南さんはそうですか、と優しく微笑んでくれた。


「さあ、食べ終わったなら早く寝て治しましょうね」
「はい!」


もう一度お礼を述べて布団に潜る。
目を閉じると額にひんやりとしたものが乗せられて、すぐに山南さんの手だと理解して自分の顔が緩むのを感じながら眠りについた。








せめて心は安らかに

(みんなのおかげ、のみんなには)
(山南さんも入ってるよ)




20120525

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