課外活動をしていた時の事だった。
各自ペアとなり事前に伝えられた課題をこなしていく、というものだったのだが、運悪く不貞を働く輩に出会ってしまった。街のはずれとはいえ白昼堂々行うとは余程自分に自信があるのか、それとも精神的な余裕がなかったのか。
もちろん先に攻撃してきたのは向こうで、応戦を余儀なくされた。
激しく風がうねる中、わたしとペアだった轟くんは相手がいるであろう大通りで風の渦巻く中心部を建物のかげから睨みつける。

「…名字、大丈夫か?」

不意打ちを受けた際飛んできたガラスの破片で右のふくらはぎが裂けて血が止まらないのだ。痛みはかなりある、がそうも言ってられらない。持っていたタオルで傷口を縛っているが、タオルの白は徐々に赤く染まっていく。

「大丈夫、動けるよ」

そう伝えれば痩せ我慢が伝わったのだろうか。轟くんはちらりと一瞬目線だけこちらへ向けたが再び敵へと視線を戻しそうか、と一言。
向こうは私たちが反撃してくると思っていなかったのだろう、向こうも向こうで出方を窺っているようだった。
風を操る力なのだろうか。ものすごい風量が彼を中心に発生していた。

「あいつの個性、どう思う?」
「風を作るのかな…だとしたら相性悪いね」

私は雲を作り出す個性、つよい風が吹けば作り出している途中で飛ばされてしまう。轟くんの炎も下手すると周りに火が回る可能性があるし、氷でやり合おうにもむこうには風で見えないが人質がいるかもしれないとなれば巻き込む可能性がある。
通報はしている。プロのヒーローたちが来るまで私たちで時間を稼がないといけない。
どうする、どうすればいい?

「いやもうほんとに自然を操るとかやめてほしい…海賊漫画だとロギア系は最強なのに…」
「いやそれは俺たちもだろ」
「確かに」

軽口を叩いても血を流しすぎたせいか頭がくらくらしてくる。
そもそも対応が後手にまわったのは怪我をしたわたしを轟くんが避難させてくれたためで、轟くん1人だったらもう片付けていたに違いない。これが授業だったら相澤先生にめちゃくちゃシバかれてる。
敵を観察すると敵の近くで動いたものに向かって風の塊が腕を伸ばすように払い除けていて、その間は敵の周りの風が薄れていることに気づく。
轟くんの方を見れば彼も気づいたようで頷いた。
風の壁が弱まったところを突くしかなさそうだ。

「わたしが囮になるよ」
「いやでもお前そのケガじゃ、」
「わたしの個性じゃ相手の意表は突けても有効打は与えられないから」

立ち上がったわたしの腕を掴み止めようとする手を逆に掴む。
風が薄れた時、小さな子が敵の足元でうずくまって泣いているのが見えた。はやく助けてあげないと手遅れになるかもしれないのだ。今ここで助けられる可能性があるのは私たちだけで。
おねがい、轟くん。とオッドアイを見つめれば一瞬表情を歪めた彼は渋々頷いた。
お互いの動きを軽く打ち合わせて二手に分かれることとなる。突入は敵の位置があと数mこちらに近寄った時。

「気をつけろよ」
「大丈夫!まだやりたいことあるし死ねないよ」

笑顔で力こぶを作って見せれば再度手首を掴まれた。

「お前にはまだ言えてねえことがあるんだ。絶対死ぬなよ」
「い、言えてないこと…とは…」

なんか粗相でも…?いや足は引っ張ってるけど…説教ですか…?と顔を青くしたわたしを見て盛大にため息をつく。せめて隠して。
わたしも掴む手と反対の手で頭をかいた轟くんは真っ直ぐにこちらを見つめて一言。

「すきだ」
「〜〜〜〜〜〜な、…え?」

予想していなかった言葉に惚けたわたしを他所に彼は自分の持ち場へ向かうべく背を向けた。…と思いきや振り返ってわたしのおでこにデコピンをした。

「いっ、」
「返事は終わったら聞かせろ。だから死ぬなよ」

表情一つ変えずに今度こそ持ち場へ向かった背中を見送ってわたしも慌てて頭を切り替えて熱くなった顔を叩く。

「…よし、」

轟くんが持ち場についたのを確認して(姿が見えた時顔に熱が戻ったのは許してほしい)敵の位置を見る。いまならバレずに間合いに入れそうだ。そのまますぐに大通りへと飛び出す。
すぐに気流を操り加速をつければ風のうねりが頬を掠めた。むこうの間合いに入ったのだ。
ある程度かわせば防御用の壁にしていた分の風もわたしへの攻撃へと転じ敵の周りは完全に無防備になっている。
今だ、と自分の防御もそこそこに蹲っていた女の子に雲を飛ばしてすぐ来るであろう氷結に巻き込まれないよう持ち上げた瞬間、風の塊がわたしの右半身を強く打ちつけて吹き飛ばされた。

「〜〜〜っ、う!!」

その時、パキ、と一瞬にして敵の足元から首の下まで氷が覆って、風がやんだ。
吹き飛ばされたわたしの身体は形成された傾斜のついた氷に沿って滑る。吹き飛ばされた勢いが殺されていく。
止まって地面にへたり込む頃には敵は完全に身動きを封じられ喚いていた。
そうだ、と自分が個性で持ち上げた女の子を探せば離れたところで母親に抱きかかえられて泣いている姿が見えた。

すぐにパトカーの音が聞こえプロヒーローたちが姿を現した。

「…来るのが遅いわ…ほんとに…」

悪態をついてしまった。
個性を使いすぎた身体はだるくて重くて、座っていることもままならなくて、上半身が傾いた。咄嗟に手をついた地面は濡れていて、見ればふくらはぎから血が流れて地面を赤く染めあげていて思わず声を上げた。先程の攻撃のせいか止血していたタオルがなくなっていたのだ。

「は〜、ちょっとコレもう無理だ…」

咄嗟に腰をひねって直撃を避けられたと言えど打ち付けられた右半身も痛みがすごい。もう限界、と支えていた腕から力が抜け重力に従って倒れていく上半身を後ろから冷えた右腕が支えた。

「名字!」

見上げれば轟くんがいて、その身体にわたしの上半身をもたれかからせて血が流れる足に再度タオルをきつく縛ってくれている。
血を流しすぎたせいで恐らく青くなってる顔を轟くんのほうに向ければ、

「お前、なんで自分の防御しねえんだ」

とめちゃくちゃ怒られた。
ごめん…と謝れば一瞬だけきつく抱きしめられて、両脇に腕を入れたと思えば氷に腰掛けさせられ、そのまま彼の背中におぶわれた。スムーズすぎて戸惑うわ。
そのまま歩き出した彼の背中にもたれかかる。

「はあ、みんな無事だったねえ、よかった」
「お前は無事じゃねえけどな」
「轟くんはほんとにすごいね」
「無視かよ」

ヘラヘラとしたわたしの言葉に冷静に返す轟くんのうなじに頬をつけて、緊張を悟られないようそっと口を開く。

「あのね、わたしもすきだよ」

そう告げれば1度歩みを止めた彼は少しして無言のまま歩き出した。
え?無視?と思って顔を上げて彼の方をみれば髪から覗く耳が少し赤く染っていて思わず吹き出した。
自分はあんな時に真顔で告白したくせに。

「ふふ」
「…笑うな」

パトカーのほうへ行けば連絡を受けた相澤先生や課題に同行していたリカバリーガールがいて、すぐに足の治療をしてもらうこととなった。
怒られると思いきや相澤先生はよくやった、とだけ褒めてくれて仮免とっといてよかったな〜とぼんやり思った。
轟くんは警察から事情聴取を受けるため相澤先生へわたしを渡す。先生に抱えられたわたしは背を向けた彼を呼び止めた。

「轟くん、ありがとう」
「…また後でな」
「ん」

伸びた手がわたしの頭を軽く撫でて再度背を向けた。


.


血を流しすぎたわたしはそのまま気を失ったらしく気がついたら学校の保健室のベッドの上だった。
ベッド脇の棚にはリカバリーガールの置き手紙があり、読めば満身創痍だったせいでリカバリーガールの処置ができなかったため明日の体力回復したころに保健室へくるように書いてあった。
少し痛む身体を動かして起き上がり反対側を向けば見慣れたツートン頭の少年が椅子に座っていた。
事情聴取のあとそのまま来たのかコスチューム姿のままである彼の顔は下を向いていて、どうやら寝ているようだった。
そっと手を伸ばして髪に触れれば手触りのいい髪が揺れる。
ちょうどその時授業の終わりを告げる鐘が鳴り少年の瞼が持ち上げられ綺麗なオッドアイが姿を見せた。

「おはよう、轟くん」

声をかければ瞳は柔らかく細まり、そっと抱きしめられた。

「…いだだだだだだ!!!!!」
「次無茶したらぶん殴るからな」
「けがにん!わたし怪我人だよ!!」

ふわっと回された腕が瞬時にきつく締まり手加減なしの抱擁となった。わたし怪我人なんだけど!?
すぐ解放されて痛がるわたしを無視して真顔で言ってのけた轟くんは再び口を開く。

「お前のおかげで助かった。
無事でよかった、…名前」

呼ばれた名前に照れながら笑って両腕を広げれば今度こそ優しく抱きしめてくれた。





…のを授業が終わって保健室に来てくれていたクラスメイト達に見られていることをまだわたし達は知らない。







次会うときは恋人
(オイオイあいつらできてんじゃねーか!)
(ウソだろ!?貴重なおっぱいが!!!)
(峰田ちゃん押さないで、倒れるわ)
「うわああああ!?」ガシャーン




20200608

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