みんな出払っているのか誰もいない寮の共同スペース。何人かは外出すると言っていたから他の子達は部屋にいるのだろう。一足先にお風呂をすませた私は棒アイス片手にソファでくつろぎテレビのワイドショーを眺める。途中流れたスネークヒーローウワバミのボディクリームのCM。ウワバミの脚線美は見事なもので細さ、長さ、透明感のある肌、すべてが申し分ない。
そして視線を下げればソファに投げ出された自分の足が視界に入る。雄英に入ってからは基礎体力をつけるため筋トレやランニングを欠かしていない。
そのせいか、まあ、心なしか足が立派である。

「わたしもマッサージくらいするか…」

既に食べ終えたアイスの棒をくわえながら(飯田くんに見られると転んだらどうするんだ!とよく怒られるし、ヤオモモにはお行儀が…とたしなめられる)両腕を足首へ伸ばしてそのままふくらはぎまで拳でなぞる。
数回繰り返したあとは膝から太もも、足の付け根までを行う。だんだん暑くなってきたからホットパンツにして正解だった。布の上からだと手が擦れて痛くなるし。
たった1回やっただけで細くなった気になり上機嫌なわたしは反対の足にも手をかける。
夢中でやっていたら階段を降りてくる音が聞こえた。
振り向けば爆豪くんがいて、慌ててふくらはぎに触れていた手をどける。足太いの気にしてマッサージしてたなんてバレるの、花も恥じらう女子高生には耐えられない。

「爆豪くんもいたんだね、おつかれ」
「………」

無視。
一応恋人なのだがひどすぎやしないか?
と、思えばL字型のソファのかどっこを占領しているわたしの隣に座ってくる。ツンデレか?
マッサージの最中だったので中途半端に折っていた足を抱えて体育座りに直す。
隣に座ったことでふわりと鼻をくすぐったそれは石鹸の香りがして彼もお風呂上がりだという事に気がついた。
まだ少し湿っているはずなのにつんつんしているそれが以前ベストジーニストに毛根までプライドがちがちと揶揄されていたことを思い出すとじわじわくる。
そっと髪に手を伸ばせば嫌がりもせず触らせてくれる。お世辞にも触り心地がいいとは言えないそれはわたしが撫でつけてもなお上をむく。

「おい」
「ん?」

しばらく触って遊んでいれば声をかけられた。手を下ろして彼を見れば視線は下に向いている。

「こんなとこでそんなモン履くなよ」
「え?ホットパンツのこと?やだよ暑いもん」

そう答えれば舌打ちが帰ってくる。

「男の目に入るだろ」
「なに、みんなわたしの脚に興味ある?」
「ねェよクソが」

もう一度言いますがこれでも恋人です。
ギリギリと目が吊り上がる爆豪くんの顔を眺めながら袋に戻したアイスの棒をゴミ箱へ入れる。
ほかの女子だってホットパンツくらい履いてるし、なにより暑いし。

「まあホットパンツの由来は男性の気持ちをホットにさせる、っていうことらしいけどね、わたしの脚でホットになってくれるわけがね」
「わかってるんだったら、」
「…ああ、爆豪くんはもともとホットだもんね」
「殺すぞ」

眉間にこれ以上ないくらい皺を寄せた彼がすこしかわいくてからかってしまった。それでもそっと手を繋げばちゃんと握り返してくれるのは恋人らしい。
ふふ、と笑っていれば外から複数の声が聞こえてきた。みんな帰ってきたのだろうか。

「行くぞ」
「…えっ、」

誰か帰ってきたね、と口を開く前に繋いだ手を引っ張ってわたしを立たせた爆豪くんにそのまま連れられ階段を上る。

「ちょっとこっち男子棟なんだけど」
「うるせェな。いいから来い」

4階まで登ってたどり着いたのは爆豪くんの部屋。着いてすぐ彼の匂いが香るベッドへ組み敷かれた。

「な、ななななな…!?」
「日本語しゃべれ」

さすがに恋人になったと言えどここ寮だしだめじゃない!?と思考が頭を駆け巡っていると片手で顎をつかまれて軽くキスされた。

「ばくごうく…んっ、」

名前を呼べばまた降ってくる唇。初めてのキスどころかすべてすましてしまっているとはいえまだ照れるのに器用にこなす彼がすこし憎らしい。

「やっぱダメだ」
「…え?」

唇を離して開口一番につぶやく彼の目線は再び私の足へむかう。
するりとむき出しになっている太ももをなで上げる右手は彼の個性故かすこし汗ばんでいる。くすぐったさと仄かに下腹部へ甘く響くそれに身震いしてしまう。

「ちょっ、と」
「ほかの女子がはいてても、お前はダメだ、名前」
「やっ…」

撫でる右手をそのままに左手がわたしの右足首を掴んで持ち上げる。不可抗力で開いてしまった足の付け根ギリギリをそっとなぞられる。その動きにつられて身体を震わせれば満足したように顔を近づけて再び唇へキスを落とした。

「ん…」

だんだんと蕩けてしまった思考回路はそっと身体を離した爆豪くんの姿をただ眺めることしか出来ない。姿を目で追えば開かれて無防備になっている股の辺りに顔を寄せている。慌てて静止をしようにも足は掴まれていて彼の頭を掴むことしか出来ない。
そうしてたどり着いた彼の唇は内腿の皮膚が薄いところに触れた。そのまま吸い付いて離してを繰り返している。

「ん、ん…っ」

同じ階に誰かいるかもしれないと思って少しだけ漏れた声に慌てて口を手で抑える。
そんなわたしの努力を大して気にもとめず満足したのか内腿から顔を離した爆豪くんは満足気に自分が口をつけていたところを眺めている。
無くなった刺激に少し名残惜しさを感じつつもこのツンツン頭の行動の意図がわからなくて首をかしげる。

「これで暫くは無理だな」
「…?あっ!」

解放された右足を降ろして上体を起こして見えたのは内腿に散らされた赤い鬱血痕。一瞬で頭が冴えてそのまま飛び起きて立膝をたてる。

「ちょっとなにしてんの!?」
「オメーがそんなん履くから悪いんだろうが」

ベッドに胡座をかいて座る爆豪くんはフン、と息を吐いてから舌打ちをした。

「だからってこんな付けなくてもいいじゃん!」

ご丁寧に両内腿に片手では収まらないほどつけられている。ここのお風呂が共同だって知らないわけないのに…!
もう!と怒ればうるせえな、と再度舌打ちしてわたしの腕を引っ張り、バランスを崩したわたしの身体を自分の胡座の上に座らせて抱きしめた。ツンなのデレなの?

「俺以外に見せんなボケ」
「っ……〜〜〜もうなんなの…」

口調からは想像できないくらい優しく抱きしめてくれるから絆されてしまう。ため息をついて大人しく抱きしめられる。
が、再度立てているわたしの脚を撫で始めた。

「お前さっきいい声出てたな」
「ちょっと!」

このままするか?とお腹の辺りからホットパンツの中へ手を入れようとするのを慌てて止めた。
舌打ちは降ってきたけどそのまま続ける素振りはなかった。

「も、もう戻る…」

正直このまま居続けるのはまずい。男子の部屋に女子がいることが相澤先生にバレたらどうなることやら。
そっと足の間から身を離せばオイ、とものを投げつけられる。
見れば爆豪くんがよく履いてるスウェットで、綺麗に畳んであったのは洗濯したばかりだからか。

「上から履いてけ。見えちまうからな」
「どの口が言ってんの…」

呆れながらも大人しく履いてドアノブに手をかければもう一度腕を引かれて抱きしめられる。

「名前」

名前を呼ばれ上を見れば降ってくる唇。
こういう時の爆豪くんは普段の言動からは考えられないくらい優しく髪を撫でてくれる。
ちゅ、と音を立てて離れればもう一度ぎゅっと抱きしめられる。
そのまま数秒が経ちそっと離れていった。

「早く寝ろよ」
「ん、おやすみ」
「ソレ消えたらまた付けてやっからな」
「いらないよ!」

もう!といいながらそっと部屋を出てクラスのみんなにバレないように女子棟の自分の部屋へ駆け込んだ。







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20200607

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