CR:5が拠点とするホテルの最上階で暇をもて余したジャンが廊下をぶらついていると調度シノギから帰ってきたらしいイヴァンとかち合った。


「チャオーイヴァンちゃん」
「気安く呼ぶな!」


片手をひらりと挙げて声を掛ければ返ってきた怒声。いつものことだから聞き流してイヴァンを見れば手ぶらだった。


「あれ?手ぶら」
「あ?オメーに土産なんかねえよ」
「いやいや違くて」


今日ナマエの誕生日だろ?
と聞いてきたジャンの一言にさっと表情を無くしたイヴァン。


「てっきりシノギのついでにプレゼントでも買ってくんのかと思ってた
元々買ってたのな、イヴァンちゃんたら計画的ねー」


と再び茶化せば返ってこない怒声。


「…イヴァン?」


名前を呼んでよく見れば青ざめている。
いきなり活動を停止したイヴァンを見やって思い付くことはただ1つ。


「…もしかして、忘「忘れてねえ!!!」…あ、そう」


忘れてないと言うわりには青ざめて汗をかいているイヴァンにジャンはため息をついて、


「で?なんか考えてあんの?」


と問えば、再び押し黙るイヴァン。
かと思えばなにやら小声でブツブツと呟いている。


「アイツ何なら喜ぶんだ?車か?女…な訳ねえな…服も最近スーツばっかだし…」
「あー…(つまり思い付かないわけね)」


こんなに慌てるイヴァンもなかなか見ないし、と面白がってそれを眺めるジャンの視線にも気づかないほど必死なイヴァン。
その後方からジャン達を見つけて駆け寄る影。


「結局アイツなんか欲しいモンあんのか?」
「イヴァン」
「クッソ、男なら苦労しねえのに」
「ねえ、こら」
「いっそ食いモンとかか?…いやそれはさすがに」
「イヴァーンー」
「シット!!うるせえ!!!こっちは今考え事してんだ失せろファック!!!!」


合間合間に入る他人の声についにキレたイヴァンが振り向いた先には、


「…あ、」
「……ふうん?」
「あらナマエちゃんじゃないの、ご機嫌いかがー?」
「チャーオ、ジャン。10秒前まではそれはそれはご機嫌よかったけど一瞬で悪くなったわ」


嫌なくらい爽やかな笑顔でジャンと会話をする、ナマエの姿。


「あ、おい、」
「よく協力してくれる街の子に誕生日プレゼントだーってホットドッグたくさん貰ってさあ、どっかのファッキン馬鹿ガキが大好きなとこのやつだったからあげよっかなーって来たんだけどいらないみたいだしジャンにあげる」
「!」
「あらそーお?じゃあありがたくいただくわん」


そうしてイヴァンの目の前で渡されるまだ暖かいホットドッグ。
そうしてナマエはイヴァンを見向きもせずにジャンに別れを告げて去っていった。


「…どんまい、イヴァンちゃん」


未だにナマエが去っていった方を見つめるイヴァンにホットドッグをくわえながら声を掛ければ、ものすごい勢いと形相で振り向いた。


「ファック!!…クソが!!」


出かけた拳を振り抜くことなくジャンに背を向けて去っていった。
1人残されたジャンは最後の一欠片となったホットドッグを飲み込む。


おいしいホットドッグにもありつけるし、おもしろいイヴァンも見れたし、殴られずにすむし…


「俺ってやっぱラッキーね」


と呟いた。



***


ジャンに別れを告げて部屋へと戻ってベッドの上で体育座りをしてホットドッグにかじりつく。


「ん、おいしい」


このおいしいホットドッグの店は前イヴァンに教えて貰って自分も好きなったところ。それを覚えててくれた子達がプレゼントしてくれたのだ。

だからこそイヴァンと一緒に食べたかったのに。

おいしいホットドッグを食べればこの怒りも収まるかと思っていたけれど、ホットドッグとイヴァンがイコールで結ばっているせいか先ほどのイヴァンを思い出してだんだんと悲しくなってくる。


「ふん、」


またムカッときたから乱暴にホットドッグを噛み千切る。
その時、ドアに控えめに不思議なリズムのノック。そのリズムで誰かはわかったけれど返事する気にもなれなくて無言でホットドッグを食べる。
しばらくすれば乱暴にドアが開いてイヴァンが姿を現す。


「いるなら返事くらいしろっての」
「………」
「………」


ガン無視をしながらホットドッグを見つめているとため息と共にまた乱暴にドアが閉められてうるさい足音が近付いてきた。


「あー…、その」
「………」
「ナマエ」
「………」


いつまでたっても返事しないわたしに軽く舌打ちするのが聞こえてまたイラッとする。
ガリガリと頭を掻いたあとイヴァンもベッドに座りホットドッグの袋に手を伸ばす、のを寸前で叩く。


「いってえ!」
「これわたしの」
「ああ?俺に分けるつもりだったんだろ?」


その言い方に、いつまでたっても偉そうな態度に苛ついてイヴァンを睨む。
いつものイヴァンなら睨み返すとか色々やったりするのだけど、


「………さっき、は…その、…悪かった」


なんていきなり謝ったりするから。拍子抜けして逆に笑いが込み上げてくる。


「…何笑ってんだよ」
「たまには素直なイヴァンくんもいいかなって」
「……シット」


照れ隠しなのか立ち上がってこちらを振り向いて、


「ていうかな!ベッドの上で食いモン食ってんじゃねえよ!食べカス落ちんだろ!」


急に脇の下に腕をいれられ持ち上げられてベッドの端、イヴァンの隣に降ろされた。


「…お母さんみたい」
「ああ?」


偉そうに座ったイヴァンが鼻を鳴らす。
そんなイヴァンの肩に身体を預けてもなにも言わなかったのでそのままに。


「ねえイヴァン」
「あ?」
「私今日誕生日なんだけど」


プレゼントは?と意地悪く笑えば返答につまる。大方予想はついていたから今さら驚くこともないけどちょっとは罪悪感でも感じてもらおう。


「もしかしてない?」
「…っ」
「そんなことないよねー、ジャンもジュリオもルキーノもベルナルドも覚えててくれたもの」
「わ、忘れてるわけねーだろ!」


そう言いながらも目が泳いでて、こんなんがCR:5の幹部で良いものかと思う。
そのままニヤニヤしながら見てるのに気付いたのか、小さくファック、と呟いて腕を引かれる。
瞬間、目の前がモスグレーで埋まって、


「っ、」


キスされたことを理解したのは唇が離されてからで、


「…やだもうイヴァンちゃんたら」


とだけ呟くと、自分が優勢になったのだと感じたのかいつも通りの勝ち気な笑いに戻ってわたしの身体を引き寄せて耳元に口をよせる。


「誕生日、おめでとう」


そう囁かれて嬉しくなって思いっきり抱き付けば、ぐらついたもののしっかり受け止めてくれた。
しばらくこのままがいいなあ、と思って目を閉じる。
あとできっちりプレゼントは貰うけれど。







絡めとって強引
(さてプレゼント何貰おうかなあ)
(なんでもいいぜ)
(オトコでも貰おうかな)
(んなっ!?)
(バーカ)






20121228

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