明日はクリスマスイヴ。町中がその準備に追われていつもより活気がある中をわたしは小走りで駆ける。
見慣れたホテルのエントランスに飛び込み目指すは最上階。


最上階についたとたん見つけたモスグレーに勢いよく飛び付く。


「イヴァン!」
「うお!?」


だいぶ勢いよくいったしいきなりだったから転けるかな、と思ったけれど彼は驚いただけでびくともしなかった。


「ファック!誰だ…ってナマエか」
「イヴァンー!」


怒声を含んだ声で振り返ったと同時にわたしだと気付いたのか頭を撫でてくれる。
今でこそこうして甘えさせてくれるけど初めてあったときはそりゃあもう警戒されて敵視されて。わたしがカポの親友の娘だからコネだろうと信じて疑わなかったせいだろう。すれ違う度に舌打ちされて辛かった記憶がある。

…その話は置いといて。


「いきなりどうしたんだよ、シノギは?」
「終わらせてきた!」


堂々と言うと「は!?」と目を大きく見開くイヴァン。

だって、今日は特別な日だもの。わたしが一番先に言うの。

そう口を開いた矢先、


「はん、わかった」


ニヤニヤしながらイヴァンが先に口を開いた。


「お前、明日がクリスマスだから浮かれてるんだろ?」


…は?


「お前もまだガキだな」そう続けたバカに腹パンチを食らわせる。
イッテエ!と呻く声は放っておいてもう一発お見舞いしてやった。

今日はイヴァンの誕生日。
恋人の誕生日に誰よりも一番先に会ってお祝いしたいのは当然でしょう?
なのに、コイツ、…カッツォ!人をガキ呼ばわり!

なかなか痛かったらしくて少し涙目のイヴァン。さっき飛び付いてもびくともしなかった人間と同一人物だなんて。


「なんだよ!」
「今日は!誕生日でしょう!」


なんでクリスマスは覚えてて自分の誕生日は忘れるの!バカ!


そう怒るときょとんとする。


「……あー…」


思い出したのか頭を掻き始めた。


「悪ィ、忘れてた」


ありがとな、と少しはにかみながら言う彼を結局は許してしまって、近付いて、背伸びをして、


「おめでとう」


頬にキスをした。


「〜〜〜〜っ!!?」


普段わたしからはキスだなんてしないせいか呆気にとられてから一気に赤くなったイヴァンの顔。
それを見て笑うとハッとこっちを見る。
すぐに怒ったような顔をしてわたしの手首を掴んで、


「え?あ?え?イヴァンっ?」
「ファック!」


ずんずん、ずんずん、と早足にホテルの廊下を突き進む。
途中ですれ違ったベルナルドの挨拶も無視して辿り着いた一室。
着いた途端にベッドに押し付けられていた。


「……ナマエ」
「…あのー…イヴァンさん?」


見上げればまだ顔の赤いイヴァン。

…嫌な予感しかしない。

慌てすぎて引きつるわたしの顔を見てニヤリと笑ったと思えば、

「お前が稀なことするからだ、バァカ」


そうしてわたしの首筋に顔を埋めた。





明日よりも、

(イヴァンにおめでとうって声かけたら無視されたんだが)
(アイツナマエのことになると文字どうり周り見えなくなるからな)
(だからって俺の部屋と自分の部屋間違えるか?カポの部屋だぜ?)
(……)




20121223

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