祓魔の授業も終わってみんなが帰ったあと1人でぼんやり考え事をしている。
今日クラスの子に金造とどこまでいったのか、と聞かれた。
「んー…」
そんなこと気にしたことなかった。ただ金造と一緒にいられればそれでいいと思ってたし、金造もそう思ってると考えてた。けど、金造もやっぱり違うのかな。
男の子なんてみんな同じようなこと考えてるのだとも言われた。今まで金造とそんな話をしたこともなくて、全く考えてなかった。
「………金造って…わたしに何もしてこないなあ…」
「なんや。なんかしてもええの?」
「!わあっ!!!?」
真横から声がして、慌てて飛び退くとニヤニヤしてる金造がいた。
「きききき金造…ッ?」
「ほおか。名前はそないなこと思っとったんか」
「いや、違くて…」
ジリジリ近寄ってくる金造。それから逃げるように後退るわたし。
金造の、やけに晴れやかな笑顔が今は逆に気味が悪い。
「なにが違うん?」
「や、…そのっ……」
そうこうしてるうちに背中が壁についてしまって追い込まれたことに気づく。壁に気を取られていると好機と言わんばかりに金造が近付いてきて両手首を捕まれた。
「いやあー嬉しいわ。名前もそう思っとったんやなあ」
「金造っ」
目の前には満面の笑みの金造。いやまだ早いよだめだ…!と思っている間にもその顔が近付いてくるのを見て思わず目を瞑った。
が、いつまでも立っても何も変化は起こらない。
恐る恐る目を開けると目の前には俯いて微かに震える金造。
…笑ってやがる。
つまり金造にはめられたわけで。
「…金造くん」
「っ…ふ、堪忍っ…くっ」
いつまでも笑ってる金造の頭に、おもいっきり頭突きした。
「っだああああああ!?なにすんねん!」
「いつまでたっても笑い止まないからでしょーが!」
おもいっきりやっただけあって金造の目は涙目になっていて少しやりすぎたかな、と反省するが悪いのは全部金造だからと開き直ることにした。
「頭突きはないわ!」
「金造が悪い!」
「お前かいらしかったんやから仕方ないやろ!」
「はっ…?」
今なんて言った?口の中でかいらしい、と反芻してやっとその意味に気付く。一気に顔に熱が集まるのがわかり俯く。
「…なんであないなこと思っとったん」
顔はわからないけど金造の声はいつもどおりで、あんな恥ずかしいこと言っても恥ずかしがらない金造の神経の図太さに思わず感嘆する。
「……クラスの子に、金造とどこまでいったのか、聞かれて」
「おん。なんて答えたん?」
「……ちゅー、までって」
そのあとクラスの子達にいろいろ言われたことを伝えると金造が黙った。
見上げると少ししかめっ面をしていて、なんか考えてるんだなあ、と思った。金造は考え事するとき眉間に皺を寄せるクセがある。
「…あんなあ、名前」
「うん?」
まだ少し眉間に皺がよってるまま金造は口を開いてまっすぐ私を見てきた。
「俺らまだ学生やし、そういうことに興味もある。やけど俺は…もっと大きくなってしっかり自立できた時にするもんやと思っとんのや」
「…………」
「俺らがちゃんと祓魔師なって京都に帰った時、その時までなしや」
な?、と私の頭を撫でてくるその顔は、普段の金造とはちょっと違って少しかっこよかった。言ったら調子のるから言わないけど。
「…金造にしてはよく考えてんだね」
「ハア!?なに言っとん!」
俺はいつでも物事深く考えてんのや!とかドアホな言葉は無視して金造に抱きつく。
暖かくて、とくんとくん、と聞こえてくる心音が心地いい。
「…その時まで、ちゃんと大切にしてね?」
「……その後もや」
この暖かさに嘘は無い
(ちゅーかもしそないなことやってガキでもできたらお父と柔兄にシバかれるわ)
(確かに)
20120219
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