「柔兄いー!みて!みて!おまんじゅう!!!坊がくれたん!!!!」
そういって笑顔で走ってくる幼い少女は宝生名前。その姿を見て思わず頬が緩む。
「おー饅頭もろたんか?よかったなあ おやつに食べや」
「柔兄も一緒に食べよーや!」
「俺にもくれるんか?」
「おん!」
「おおきになあ」
頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める姿も饅頭を大切そうに持っている姿も。本当にあの宝生家の子なのかというくらいかわいらしくて愛くるしい。
当たり前の事ながら姉の蝮達はこれまでかというくらい名前を可愛がっているのだが、宝生姉妹と仲の悪い俺達志摩兄弟も負けないくらい可愛がっている。
「柔兄いつお仕事終わるん?あてそれまで待っとる!」
「せやなあ…」
時計を見ると短針が2を指している。本来ならまだ仕事を終わらせるには早い時間だ。が、
ぐるるるるるるるるるるる
「………今食べよか」
「ち…違うんや!!!お腹減っとらんよ!」
あて柔兄待っとるで!と顔を真っ赤にしながら主張する。
「ほら、名前。饅頭出しいや」
「違うんよ?お腹減っとらんよ?」
「ほいほい。柔兄が今食べたいんや」
「ほんま?」
「ほんまほんま」
差し出してきた饅頭を半分に割って渡してやると待ちきれないとすぐに食べそうになったから、
「ほら、いただきますは?」
「いただきます!」
ちっちゃい口で半分に割ってもまだ大きい饅頭を頬張っている姿がまた小動物を連想させて。ちょっと意地悪してやりたくなった。
「うまいなあ」
「おん!」
「名前は食いしん坊さんやもんなあ」
「む!あて食いしん坊やない!!」
「ほぉか?お昼食べてもお腹減っとったんは誰や?」
「むむむむ…」
ちょっと険しい顔になった。
きっとそのちっちゃい頭の中で言い返す言葉を考えてるのだろう。
「そ…それはたまたまや!」
「いんや、たぶん坊も名前が食いしん坊さんやから饅頭くれはったんやで」
と言っておでこをつん、とやってやると案の定饅頭を食べ終わった手をふるふるふるわせて、これでもかというくらい頬を膨らませて、
「今日の柔兄いじわるやーー!」
と、叫んだ。冗談やで、という前に廊下の方からドタドタドタドタ、と音が聞こえてすぐに襖が勢いよく開かれた。
「このお申!!!!!!!また名前いじめとんのか!!!今日という今日こそは許さん!」
「あねさま!!!」
そこにいたのはもちろん蝮で、蝮の姿を見ると目を輝かせて抱きつきにいった。
「あねさま!おかえりなさい!!」
「蝮ィ…」
「ただいま。だめやろ、名前。志摩のお申どもに近づいたらアホが移るえ?」
これだから野蛮なお申どもは、と名前の頭を優しく撫でながら勝ち誇った顔でこちらを見てくる蝮にイラッとくる。が、
「あねさま!今日の柔兄はいじわるやけどいっつもあてと遊んでくれるんよ!」
柔兄だいすきやで!と蝮に笑顔で言った名前に顔が緩んだ。
餌付け作戦
当然そのあと鬼のような形相で蝮が蛇出してきよった。
- - - - - - - -
餌付けしたのは坊だった
20120218
<