東京、池袋。
なんでも起こりうる、
そんな場所。
「…お世話に、なりました」
拝啓、お母さん
家賃が払われていませんでした。
追い出されました。
どうしてお母さんと連絡が取れないのでしょうか。
田舎を出て都会の中学校に通って早3ヶ月。
仮にもまだ中1です。
「どうやって生きてけばいいんだよーーー!!」
東京、池袋某所。
わたしは、独りになりました。
- - - - - - - - - -
「うう…」
家が見つかるまで野宿しかないわたしは公園に行ってベンチの上に寝そべった。
見上げた空は都会の光を受けて黒ではなく紺色に近かった。
「家の、あたりは真っ暗だったのに」
田舎のことを思い出すと涙が出てくる。
本当に、これからどうやって生きていけばいいのだろう。
お母さんはわたしを捨てたのだろうか?
あの、お母さんが?
「………」
既に何十回と打っている電話番号。数回のコールの後いつも聞こえてくるのは、
『この電話番号は現在使われておりません。もう一度番号をお確かめの上―――――』
幾度と聞いたそのメッセージに唇を噛み締めながら電源ボタンを押す。
もうすぐ、携帯の充電も切れてしまう。
「……お母、さん」
ちょっとでも気を緩めれば涙がこぼれそうになる。
その流れだしそうな涙を無理矢理押さえ込んで目を閉じる。
今日はもう寝よう。
明日は繋がるかもしれない。
そうして眠りに入ろうとした瞬間―――
「どうしたの?大丈夫?」
一つの声が。
驚いて目を開ければすぐ目の前に見知らぬ男の顔。
「――――っ!」
「おっと」
「!?むううっ!」
叫びそうになったわたしの口を男の手が塞ぐ。
「落ち着いて。別に取って食ったりしないさ」
「んう!」
男はもう一度わたしに騒がないよう念をして手をはがした。
「っ………誰ですか」
「ひどいなあ。ただこんな夜中に公園のベンチで寝る女の子を心配しただけなのに」
「…………」
確実に怪しい。
わたしは警戒を解かないまま上半身を起こした。
「ねえ?…名字、名前ちゃん?」
「………!」
わたしの名前を知っている?
「……あなた、誰ですか」
「俺?…教えてほしい?」
「はあ?」
街灯に照らされたその顔はとてもにこやかだった。
「俺はね、―――折原臨也」
「おりはら…?」
どこかで聞いたことがある名前。
思い出そうと記憶を探るのは臨也と名乗った男の一言で無駄な努力となった。
「情報屋、ってのやってるんだけど」
「…………!」
情報屋の折原臨也…!
聞いたことがあるはずだ、中学で友達が言ってた…この街で関わってはならない人物。
「その様子だと俺のこと知ってるみたいだね」
笑いを含んで投げ掛けられた言葉にさらに警戒を強める。
険しくなったわたしの顔を見て臨也は笑う。
「そーんなに警戒しなくてもいいよ。さっきも言ったでしょ?別に取って食ったりしない…ってね」
「………有名な情報屋さんがわたしに何の用ですか?」
「ん?そんなの簡単」
そして深まった笑顔。
「母親と連絡が取れなくなって賃家を追い出された気分はどう?」
「…………!」
その言葉に、絶句するしかなかった。
「君、お母さんと2人家族だったんだよね?なのに母親に連絡は取れない。家賃も払われていない。もしかして捨てられたんじゃない?」
「…………」
「今ごろ君のお母さんは君のこと忘れて遊び暮らしてるだろうね」
それは、どこか心の隅で思っていて無理矢理押さえ込んでいた考え。
……でも。
「……それはそれで、」
「ん?」
「それだったらいいんです」
「…………どういう意味かな」
なんでこの人にこんなこと話さなきゃいけないのか。
「お母さんは今まですべてをわたしに捧げてくれたから。」
「………」
「楽しく暮らしてるなら、それはそれでいいの」
予想外だったのか、臨也の目が見開かれる。
その後また笑みを浮かべると、
「……なるほどね。 ねえ、名前」
「?」
「俺の助手にならないかい?」
「…………は?」
真夜中の邂逅
(数時間後、
わたしは彼の家で朝を迎えた)
20120218
<