17 その轗軻


 嫌々ながら代表としてのパーティの最初にダンスをしたハリーと、古臭い中古の燕尾服で気分が沈んでいるロンが会場の端で項垂れていた。
 紆余曲折、パートナーの申し出を受けてくれたパーバティ・パチルとロンのパートナーであるパドマ・パチルとも別れて、外に歩きに出た。

 スネイプがイゴール・カルカロフと話しながら、バラの茂みから身を寄せ合っていた男女を叩きだしていく。逃げていく生徒を確実に認識して、減点を言い渡す。
 3組ほどの男女が暗がりから逃げるのを呆然と眺めていると、スネイプはある場所で勢いを失った。設置してあるベンチに座っている生徒と話をしているようだった。

「あれ、マルフォイだ……1人に見えるけど、パートナー見つからなかったとか?」 ロンが口元を緩ませる。
「見つからなかったならわざわざ来るとは思えないけど」
「確かにそうか。あいつ僕の服装笑ってきたけど、最近ほんと絡んで来なくなったよな」
「うん、大人しくなったと思う」

 ロンの言う通り、マルフォイはこちらを気にする素振りも、あからさまな侮辱もしなくなった。
 スネイプが踵を返し、こちらに向かってくる。なんとか取り繕って、減点を免れた。ハリーとロンはマルフォイのパートナーがベンチに横たわっているらしいことに気付き、遠目から確認することにした。

「……大丈夫か? 医務室に戻った方が」
「ありがとう、ドラコと踊れて良かった……」

 どうやらパートナーの女の子はマルフォイに膝枕されているようだ。今まで聞いたことも無いような、愛おしいものを気遣うマルフォイの優しい声が聞こえる。
 思わずハリーとロンは目を合わせたが、女の子の声がとても弱々しく、マルフォイを笑える状況では無いと察した。

「楽しめたか……?」
「うん、とても。ごめんね、ドラコ、長くいられなくて」
「大丈夫だ。クロエがいない場所にいても意味は無いしな」
「ふふっ……」

 クロエの名を聞いて、ハリーとロンは再び目を見合わせた。確かマルフォイとクロエは仲違いしたと聞いていたが、どうやら仲直りしたらしい。
 マルフォイは躊躇いなくクロエを横抱きして、パーティの雑踏から静かに去って行った。

 マルフォイが誰かを慈しむ様子に驚きを隠せなかったが、それ以上に恐ろしいものを見てしまった。マルフォイとクロエが移動した直後、パンジー・パーキンソンが恨みがましい顔でマルフォイの背中を睨んでいる姿を目撃したのだ。

「……クロエって絵の子だよね?」
「うん。最近、代表4人も描いてもらった」

 パンジーの事は見なかったことにして、散歩を再開した。


◇◇◇


 クリスマス休暇明け、リータ・スキーターによってハグリッドが半巨人であることがリークされ、魔法生物飼育学の担任が急遽変更された。巨人は非常に狂暴で、「例のあの人」に与していたと言われている、忌避される存在だ。
 しかしそれだけではなく、スキーターが情報提供した記事にはドラコ・マルフォイのパートナーについても書かれていた。

「ドラコ、読んでみろよ。これ本当だったらやばいんじゃないか?」
「……なんだ?」

──三大魔法学校対抗試合にて行われたクリスマス・ダンスパーティの情報も手に入った──純血の名家、聖28一族に数えられているマルフォイ家のご子息ドラコ・マルフォイが選んだパートナーは、クロエ・アーレントだ。
 アーレント家は、3代前(クロエの父方の曾祖母)に魔女がいた以外は非魔法族の家系である。純血主義であるマルフォイ家のご子息はなぜ非魔法族の彼女をパートナーに選んだのか?
 同じスリザリン寮の生徒にインタビューをしたところ、ドラコ・マルフォイとクロエ・アーレントは男女の関係であることが分かった。マルフォイ家は現在子供は1人のみだ。このままでは聖28一族としての純血が途絶えてしまう事になるだろう。


 ドラコは記事を読んで顔を青ざめさせた。ハグリッドの半巨人の記事までは笑っていられたが、自分に関係する内容で硬直した。
 仲間意識で繋がっていたはずの、純血主義のスリザリン生達が遠巻きにせせら笑う。純血主義では無いスリザリン生からも蔑まれるような視線を向けられている。

 こんな記事が世間の目に留まれば、両親に知られるのは時間の問題だ。
 たったこれだけの文章で、一瞬にして孤立した。まずい、どうにかして取り繕わなければ、立場が危うくなってしまう。父上にも迷惑をかけてしまう。

「大丈夫? ドラコ……ああ、どうしてこんなことに……私が早く引き離せていれば良かったんだわ」
「ぱ、パンジー……」
「私は味方よ。ドラコ、あなたは悪い虫に引っ掛かっただけなのよ。きっと服従の呪文であなたを操って貶めようとしたんだわ! 私が誤解を解くのを手伝ってあげる」

 揺らぐ感情が、まともな思考を妨げ始めていた。


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