15 その夢幻


 クリスマス・ダンスパーティが近付いていた。
 対抗試合で行われるダンスパーティは4年生以上が参加可能となっている。下級生をパートナーにしても構わないらしい。
 他校の生徒との交流を兼ねた大事なイベントだ。問題なのは、全員が望んだ相手とパートナーになれるかどうかという事。

 相思相愛の男女であればすぐにパートナーになり、片思いであれば断り断られの会話が城中で飛び交っていた。

「ドーラコっ! パートナー決まってないでしょ? 私も決まってないのよ!」
「パンジーか……それは、互いに早く決めないとな……」
「どうしたの? 私をドラコのパートナーにしてくれないの?」
「悪い、声を掛けたい相手がいる」

 パンジーからの誘いを断り、談話室を出た。
 背後でリータ・スキーターが、ドラコ・マルフォイのパートナーに興味を持ってしまったことも知らずに。

「ドラコの奴、去年から医務室にいるハッフルパフに入れ込んでるんだぜ」
「そのハッフルパフはマグルよ……」 パンジーが怒りに震える声で呟く。

 リータ・スキーターはスリザリン生達からの情報を、自動速記羽根ペンで取り零すことなく書き溜めていく。


◇◇◇


「ダンスパーティ? 私、行けるかな……先生に相談してみる」
「……無理にとは言わないさ」
「でもせっかくのお誘い……今回のダンスパーティは滅多に無いイベントだもの」
「ああ、せっかくなら思い出を作りたい」

 ダンスパーティのパートナー探しの話が出た瞬間、すぐに頭を過ったのはクロエだ。
 しかしマダム・ポンフリーから許可を得られるかも分からないどころか、クロエはベッドを下りてダンス出来るほどの体力があるのかすらも分からない。

 残り少ない時間を、いつ尽きるか分からないクロエの命を、楽しい思い出で満たすには僕1人では力不足かもしれない。それでも全力を尽くしたい。

「もし、会場に行けなくても……ここでダンスするのはどうだ? 2人だけのダンスパーティだ」
「素敵な時間になりそう」

 僕は、クロエの事が好きなんだ。この感情に嘘を吐くのは、クロエを否定することと同義。
 クロエの隣に僕が、僕の隣にクロエがいることを、隠さずにいられる時を過ごせるなら……最高に幸せな時間になるだろう。


 数日後、クロエは先生に相談し、クリスマス・ダンスパーティに参加することを許可してもらえたと伝えて来た。

「本当か! クロエのドレスを用意しよう、今度カタログを持ってくる」
「ありがとうドラコ。たった一夜だけ着るドレスだから、そんなに気にしなくても……」
「ダメだ。君の一夜はありふれた一夜じゃない……それに僕のパートナーを務めるんだぞ? それなりに着飾ってもらわなければ」
「ふふっ……うん、そうだね」

 ドレスを決め、装飾品も取り寄せる。マダム・ポンフリーは顔色を少しでも良くするために軽く化粧を施したほうが良いと、アドバイスをくれた。
 ダンスの練習はほとんど出来なかった。クロエは男性パートを踊る僕を描いて、手の置く場所や足の運び方を頭に叩き込んだらしい。

「うーん……足を踏んでしまうかも……」
「僕がリードする、クロエは身を任せればいい」

 そう言うと、クロエは少し不服そうに頬を膨らませた。


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