11 その忘失


「Mr.マルフォイが倒れたハッフルパフ生を介抱したそうだ。スリザリンに20点」
「当然のことをしたまでです」

 魔法薬学の授業で、スネイプ教授から加点された。得意げな顔で加点を受け入れるも、正直どうでも良かった。
 イースター休暇も明けて、もうすぐでクィディッチ・シーズンの大勝負、スリザリン対グリフィンドールの試合だと言うのに、練習に集中できない。グリフィンドールを抑え込まなければ、優勝杯を奪われてしまう。

 それでも、僕の頭の中は医務室のベッドに横たわる、クロエの姿でいっぱいだった。

「……マルフォイ。マダム・ポンフリーが目覚めたと伝えに来たぞ」
「っ! ほ、本当に? ありがとうございます!」

 授業後、スネイプ教授からの言葉で心臓が大きく跳ね上がった。クラッブとゴイルを放置して、息急きながら医務室に駆け込んだ。
 医務室の最奥、カーテンが敷かれた場所にクロエがいる。血を吐いてから3日が経っていた。

「クロエ……ドラコだ。話を聞いてほしい、誤解を解きたいんだ」
「……ドラコ? 会わなくなってどれぐらい経ったかな、もう……顔が分からない……」
「気にする必要はない。僕はそんな君を受け入れてるつもりだ」

 顔に影を落とすクロエが、小さくありがとうと言った。弱々しい声に、脆く崩れそうな呼吸音に、僕の心臓が強く締め付けられていく。

「君を、穢れた血だと思ったことはない……確かに僕は純血主義で、マグルを穢れた血と呼んだこともある。でも君は違う。他のマグルとは違うと思ってる……」
「…………やっぱり私、みんなと違うんだね。そうだよね、人の顔上手く覚えられないから……出来損ないだもの……」
「そういう事じゃない! 君は僕にとって特別ってことだ!! 純血がマグルより優れてるんだって教えられてきたけど考えを改める。だから……僕を……君自身を嫌いにならないでくれ……」

 互いに絞り出すような声で、静かに想いを打ち明けていく。上手く伝わらない、もどかしさに拳を握り締める。

「……良かった、私、ドラコを嫌いになりたくなかったの」
「それは良いことを聞いた」

 クロエと顔を合わせて笑い合うことが出来た。最近、何をやっても満たされなかった心が、あっという間に満たされた。僕に足りなかったのは、これだ。
 ようやく、取り戻すことが出来た。クロエの存在は、僕の一部になっていたのだ。

「顔……覚えるの、やり直しになっちゃった。ごめんね、ドラコ」
「構わない。今度はここに来るから、また描けばいい」
「うん! ありがとう!」

 クロエの目覚めた姿を見れて、一安心だ。言い訳にしないよう、クィディッチも頑張ってグリフィンドールに勝たなければ。クロエに良い報告が出来るように。

「クィディッチ、頑張ってね。試合観に行けるか、分からないけど」
「無理はしなくていい、ここからでも応援は届く」

 まだベッドを出る許可を得られていないクロエが、土曜の試合を観戦できるか分からないが、ベストを尽くす。
 そう約束をして、試合の日を迎えた。


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