侵食するように、なじむ。
大勢の人が話していようと必ず分かってしま う。目を瞑っていても彼の声だけがやたらと透き通って聞こえて、私の頭の中でこだまする。

ちらりと視線を隣に流すと、白石くんは友達と楽しそうに談笑していた。…別に顔はそんなに好みやないのに。もう一度目を瞑って、耳を澄ましてみる。


「ホンマに可愛い奴やねん」

「…へー」

「絶対大事にしたるわ」

「白石、お前な」

「なんや」

「ええ加減にせぇや!なんで普通にテレビの話 しとったのにカブトムシの話になんねん!」

「カブトムシやのうてカブリエルや!」

「どっちでもええわ!」


低音でもなく高音、でもない。かと言って忍足くんみたいに少し早口でもなく、流れるように喋る。あぁ、私って白石くんの声が好きなんや。だって顔だけなら忍足くんのが好きやし。他の女子はカッコいいとか美形だと言う。白石くんは確かに綺麗だとは思う。でも白石くんは顔より声が素敵だ。そんな事を言うと私の友達は“アンタってホンマ声フェチやんな”と笑った。なるほど声フェチか。言われてみればそうかも?と、思ったがすぐに否定した。私が好きなのは白石くんの声だけだった。


「なぁなぁ」

「あ、なに?」

「さっきから白石くん見とるけど、とうとう白石くん好きになったん?」

「は?」


前の席の友人の問いかけに、思わずしかめっ面をしてしまう。私の友人に白石くんが好きな人は多いし別に驚く必要はないけど…。そこまでガン見してたんなら申し訳ない。


「…んー、どないやろ」

「えぇって!白石くんホンマかっこええもんな 」

「そう?」

「かっこええやん!白石くんの顔、目の保養や わ」

「なんやそれ」

「だってそうやろ。あないに整った顔見とった ら幸せや」

「……私は、白石くんがもっさい顔しとっても ええと思うけど」

「それこそなんでやねん」

「やって…。白石くんのええとこは顔やないと 思うし」


手にしていたシャーペンをくるくると回しながらそう言うと友人は面食らった。白石くんの一番ええ所は顔やない、声や。それを口には出さなかったけど、本心である事に差違はない。やれやれと言いながら友人は前を向いて次の 授業の準備を始めた。

…だってあんなに素敵な声、聞いたことがない。どうやらカブトムシ談義を終えたみたいで忍足くんは自分の座席に戻っていた。ついつい…もう癖みたいになっているのかもしれない、白石くんをちらりと見る。白石くんは私の方を見て、花のように微笑んだ。この人はどうしてここまで完璧なのかと問いたくなった。





花ながす音を汲みて入る



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