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もしかすると、わたしと臨也は決して交わってはならない存在だったのかもしれない。よく考えると今わたしが居る臨也のマンションの一室だって、あのとき臨也と出会っていなければ来なかったわけだし、街の裏側に全く縁のないわたしが情報屋という危険極まりない仕事のお手伝いをしなくて済んだのに。でもこの仕事は嫌いじゃない。いろいろ矛盾しているが、わたしにとっては今の生活が一番見合っていると思うのである。

しかし気がかりなのが最近になって新宿の街を拠点にしている臨也が、やたら池袋に行きたがることなのである。理由がどうであれ、毎夜毎夜の、カラーギャング騒動やら"池袋で喧嘩を売ってはいけない人間"の存在やらでかなり物騒なのであまり近づきたくないというのが本音なのだが、そうもいかない。


「臨也、おかえり。今日はどこに行ってたの?」

「どこって、池袋だけど。」


帰って来るなり、ただいまも言わずにタオルだけを持って風呂へ向かおうとする臨也。わたしが尋ねても何だか素っ気ない態度で返事を返してくる。すると、いきなり何かを思い出したかのように薄ら笑いを浮かべてわたしのほうに足を進めてくる。それを横目で見ながらコーヒーを入れようとポットに水を入れ、スイッチを入れるわたしの手を引いて顔を近づける臨也に、不覚にもドキッとしてしまった。脳がする勘違いとはこういうものなんだと思った。


「ナマエちゃん、池袋に行って俺が浮気でもしてると思ってたわけ?ナマエちゃんは意外とそういうことを気にする性なんだ?」

「っ……!!」


口だけは達者な臨也に反論できるわけもなく、わたしは黙った。このままキスをしてしまうのではないかというくらい顔が近い。しかし、わたしたちは別に付き合っているわけではない。 

あくまでわたしは、情報屋である折原臨也を手助けするお手伝いさん。この場所にいるときは女でいてはならないのだ。わたし的には波江さんのほうが臨也とできているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。以前から気になっていたことなので尋ねてみたのだが、そのとき臨也は高笑いしながら否定した。あの態度からすると嘘とは思えない。


「まあ今日は粟楠会の四木さんとの情報交換しに行っただけなんだけどね。報酬もたくさん貰ったし、いい仕事だったよ今日は。」

「へえ、そっかあ。」


粟楠会の四木さんといえば臨也がよくつるんでいる裏社会の人だったっけ。まあ直接会ったことのないわたしがいうのもなんだが、お得意さんで報酬も比較的高いから、組織のお偉いさんなのだろう。


「何でそういうことを聞くの?」

「何でって……別に。」

「嫉妬してくれてるのかなーって思って期待したのに」

「へ?」


的外れな反応をしてきたので少し慌てつつも平静を装った。嫉妬というのは、付き合っている者同士が他の異性と話していたり、一緒にいるのを見て妬むことを言うのではないのかと疑問に思ったが、納得のいく答えは見いだせなかった。


「でも安心していいよ。俺が好きなのはあくまで人間だし、そこらの女を見て欲情するほどバカじゃないからね。…あ、もちろんナマエは特別だよ?」

「え…!?」


わざとらしく取って付けたように言った言葉だったが、わたしの心に見事に突き刺さった。それに感づいたのか臨也が先ほどとは違う笑いを浮かべてわたしに言い放つ。


「もー。平静を装ってないで自分に素直になりなよ」

「そ、そんなことない!わたしが臨也に嫉妬なんてするわけないでしょ…もう!ていうか今から風呂入るんじゃなかったの?早く行ってよ!」


わたしはぐいぐいと臨也の背中を押しながら、無理やり脱衣場に押しやった。何か物言いたそうな顔をして振り向いたが、わたしは脱衣場のドアをぴしゃりと音を立てて閉めた。これ以上臨也と同じ空間にいると、抑えていた感情が全て溢れ出しそうでならなかった。

少しだけ見える臨也の影を見て、風呂に入るのを確認すると、わたしはリビングに戻った。ちょうどさっき入れておいたお湯が温もったようなのでコーヒーを入れてテーブルの上にことんと置いた。



(臨也のこと、好きだったのかな)


そんなことを考えていると、少し恥ずかしくなってきたので、手元にあったコーヒーを手にとり、ごくごくと豪快に飲んで気を紛らわそうとした。砂糖を入れていなかったのでちょっと苦かった。



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