lost
酔った勢いでヤってしまった。今この状況がそうとしか思えなかった。なんせ腰とケツが痛い。目が覚めたら素っ裸で、見覚えのない天井が広がっていて、床には乱雑に脱ぎ捨てられた衣類が散らばっていた。隣は既にもぬけの殻で、バスルームからシャワーの音が微かに聴こえる。残っているのはタバコとヤツの香水と精液のにおいだけ。
最中の記憶は勿論、ライブの打ち上げをした筈のバーからホテルに来た記憶さえも殆どなく、どのくらい飲んだのかを思い出そうとすると鈍い痛みがこめかみを貫いた。
シャワーを終えたガイがバスタオルを背中に羽織って出てきて、思わず目を逸らす。男の裸なんて普段なら別に何とも思わないはずなのに、腕のタトゥーが頭の中をちらついて直視出来ない。
何も言わず腰にバスタオルを巻きなおしてベッドに座り、タバコに火をつけた。さりげなく見ると背中やら首筋やらに引っ掻き傷らしきものが生々しく残っていて、本当に昨晩俺とこいつはヤったんだと言うことを再認識した。一人後悔やら罪悪感やらでいっぱいになっているのに、何事もなかったかのようにタバコに火をつけたもんだから、同時にこいつは誰とでも寝れる奴なのか、となぜだか少し残念になった。
「…男も平気なんだな」
思わず声になって出た言葉に
「…ヤんのに男も女もあるかよ」
吐き捨てた言葉は、言い慣れた台詞のように聞こえた。
あれから誘われてはヤるだけの関係になってしまった。所謂セフレってやつ。最初は酔った勢いだったものの、しらふで終えた後はもう俺は引き返せない過ちを犯してしまったという気持ちでいっぱいになった。しかしながらガイ様は私の物と言わんばかりの盲目の女共を差し置いて独占している間の優越感ったら他の何にも比べものにならなかった。バンドマンとしてどうなんだと非難されようとも、ガイとのセックスはライブ以上に最高の気分だった。センター陣取って黄色い歓声を浴びていきがってるこいつが俺の事だけを見てくれている、俺で興奮してくれている、そう思うだけで疼く身体は正直で、求められるがままに俺は今日も限りなく無意味な精子を飲み込む。