滲んでいく月


永遠なんてない。
少なからず幸せを感じていた日々を思い返しては、何度もそう自分に言い聞かせた。そうしないと朝目覚めるのがやっとなくらい。目が覚めて抱き寄せようとする腕は宙を掻く。隣には誰もいない。テーブルの上に置き去りのまま、彼が吸っていた煙草の空き箱すら捨てられないでいる。そんな俺に携帯に残った連絡先なんて消せる訳がない。我ながら未練ったらしい。よりを戻したいなんて感情はあまりにも身勝手だ、だって付き合ってすらいなかったのだから。
「もうお前とは会えない」
一方的にそう告げられたあの日のことを今でも鮮明に覚えてる。俺以外に相手がいることなんてずっと前から知っていたし、わかった上で俺は好きだった。恋人未満友達以上の関係で、自分がその中でも上位を占めていると自惚れていた。
「なんで」
「…別に。ていうか付き合ってたわけじゃねぇだろ」
いつでも解消できる関係、そして、ただのバンドメンバー。
「バンドは」
「解散だろうな、俺らが始めたんだし」
我儘なのはわかっていたけどあまりにも酷すぎる。私情をバンドに持ち込むなんて許せない、そう思った瞬間頭に血が上った。細い肩を鷲掴みに思い切りベッドに押し倒した。脚の間に割って入ると困惑した面持ちのガイがいた、こんな顔は初めて見た。衝動的になってやってしまった己の行為を後悔した。不意にガイの手が後頭部を覆う。ゆっくりと引き寄せられて唇よりも前にひんやりと舌先が触れる。離れたくても離れられない。頭がボーっとする程の長いキスはこれが最初で最後だった。
「恋嗚から誘ってくるなんて珍しいじゃん」
「…違うよ」
「勃たせといて何言ってんの」
伸ばしてくる手を跳ね除けた。精一杯の抵抗。こんな状況でも生理反応を制御出来ないなんて。だって好きな人と一緒にいてキスをした、条件は充分に揃ってた。
煽てられるままに脱がされて触れられて、気づいたらガイも自ら脚を開いていた。触ろうとすると拒まれる、拒否権なんてあるのだろうか。
「指挿れさせて」
「そういうのいいから早く突っ込めよ」
僅かな唾液を纏わせたくらいで痛くないわけがない。抵抗すればする程に俺ばかりが気持ち良くて何だか惨めだ。扱かれる度に身震いがする。声にならない声が喉の奥で鳴り嫌な汗が滲む。眉間に皺を寄せて快感に耐える酷い顔に蕩けた目で羨ましそうに見つめられる。只管に屈辱感、見られて興奮するような趣味は俺にはない。
「気持ち良さそうだなぁ恋嗚」
「っガイやめ…て、ヤバいって、」
「イったら殺す」
一際低い声音で囁かれ危うく達しそうになった。器用に脚で背中を押され、引き寄せられる先端が外壁をぬるりと撫でる。
「、ダメだってば」
「うるせぇよ。早く挿れろ」
ゆっくりと呑み込まれながらも気持ちだけは抗いたかった。ただ欲には敵わない。今日は惨めな気持ちにばかりさせられる。時折小さく呻き声を上げてはいたけれど、喘ぎ声の間違いかもしれない。ああ、ゴムすらしていない。呼吸を整える暇のないくらいにあっさりと根元まで咥えられていた。しかしながら慣らしてないからやっぱりキツい。だから言ったのに。温かさに加えてこの圧迫感はやばいんだって。
「はあ…やっぱいいね、お前の」
「もう、無理かも」
「いいよ、ほら、早く。気持ち良くして」
こんなの自制が効くはずない。なされるがまま、意識を放棄して俺に快感を委ねるガイを心底愛おしいと思った。当初の目的を忘れてセックスに夢中になっている。喘ぎ声じゃ会話にならない。もっと酷くして、ガンガン突いてってなかなかにマゾ気質な台詞を吐いて散々犯されてご満悦な君が最後になるなんて。
名前のない関係を続けていくなんて、ずっとこのままで居たいだなんて。浅はかな考えでした。



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