午後11時を過ぎた頃、メールが来た。
From:橋場樟葉
Sub:こんばんは
Text:
窓見て
慌てて窓から外を見下ろすと、オレンジのマフラーに顔を埋めた彼女と目が合う。彼女は笑った。
「こんばんは!幸村くん!」
真冬の夜はキンと冷えた空気で、晒している肌を刺す。隣を歩く彼女も、鼻の頭が真っ赤だ。それを一瞥して辺りを見回す。真夜中だというのに人は案外多かった。多分皆行先は一緒だろう。
「橋場さん」
「なあに?」
「どうして俺を誘ったの?」
彼女はそれを聞いた瞬間、ゆるりと目を細めた。そして言った。行ったらわかるよ、と。
「あ!来た来た!」
「おっせーぞ幸村!」
「樟葉たち最後だよー」
「これは…」
いったいどういうことだろう。初詣の参拝客たちとは少し離れた場所に固まるメンバーは、自分のクラスメイトだった。混乱して彼女を振り返ると、赤い鼻をした彼女はにっこり笑った。そのまま何も言わずに通り過ぎ、クラスメイトの中に加わる。しばらく呆然として突っ立っていると、「何してんだ?早く来いよ!」とクラスの男子に言われた。
「よし!全員揃ったな!あと何分だ?」
「ちょうどあと一分三十秒ー」
「うっわギリギリ」
わいわい、がやがや。クラスメイト達は騒ぐ。黙ったままでいると、いつの間にか彼女が隣に立っていた。
「橋場さん、」
「皆とね、計画してたの」
あと一分、と声がした。
「幸村くん、今年は夏まで病気で入院してて、テニスの大会が終わってもクラスに微妙に馴染めてなくて」
皆が輪になりだす。彼女が袖を引っ張り二人で輪の中に加わる。
「迷惑かもしれないけど、大晦日と元旦はテニス部で集まらないって、聞いたから」
あと三十秒。
「もう、あと少しで卒業だけど」
カウントダウン、十五秒前。
「―――――幸村くんに、幸村くんと、思い出作りたかったんだ。」
じゅーう、きゅー、はち、なな、ろく、ごー
気付いたら、いつの間にか声を出していて。
よん、さん、にー、いち!
『ア ハッピーニューイヤー!!!!!!!』
爆発した大声と仲間にもみくちゃにされて、おれは、今年初めての大笑いをした。
A HAPPY NEW YEAR!!
(今年もよろしくお願いします。)
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