リリム、サキュバス、インキュバス、アルプ……人の精を糧にし生きる淫魔たちは沢山いる。異性の姿で以て人の夢に現れ、抗いがたい欲求を暴き、精気を啜る。中には、悪魔の子を孕ませるものもいるらしい。
眼前に広げた紙面の文字を目で辿り終え、ため息を吐く。
地方図書館といえど、蔵書の多さは流石だ。だけれど、そんな本たちでさえ俺の求める答えを示してはくれないのか。
山積みにした本の中、俺は一人頭を抱えた。
……はらが減った。
昨今の倫理・性道徳観の中、例えいくら魅力的な異性を模して夢の中に現れたところで、易々と床を共にしてくれる人間は減った。堅固な理性の前では、悪魔の魅せる幻想など、すっかり弱くなってしまった。それでなくとも元々力の弱い下級悪魔には、世知辛い世だ。
それに悪魔だって、人の中に生まれ、人の中で生きているんだ。現代社会の観念で生きている。本当は、人の精なんて奪いたくない。俺はもう、こんな卑しい生き方はしたくない。
それでも、俺の前には別の道なんて無い。
今日も収穫はなかったと、暗い気持ちで図書館を後にした。
……酷く喉が渇く。
歩くのもままならなくなって、帰宅の途も半ばだというのに、ようやく入った路地裏で壁に凭れた。
上擦る自分の息が内耳に反響する。