第5魔法少女

「もう魔法なんて、使いたくないの」

女は、赤い唇でごねた。

女は、四代前からボンゴレに仕えてきた魔女だった。一日、回数限定の魔法。なんでも叶う。なんでもできる。なんでも。なんでも。
俺はその女と、残念ながら仲が良かったみたいだ。こうやって、女の一番の苦しみとやらを、いの一番に相談されてる。月が嗤う、綺麗な夜。屋根の上で女は泣く。啼く。

「まあ、座れよ」

「…ん」

女は牛乳が好きだ。そして、俺も好きだ。だから、いつしか2人会ったら最初に飲むのは、牛乳になっていた。ミルク瓶を差し出して、隣に座らせた。いつも存在感バツグンのこいつが、今日はやけに小さく見えた。今夜の月は、やたら光を放つからか。
女は、体育座りして、腕で作った枕の上に顔を埋めた。
珍しく、牛乳に手を出さない。

「魔法ってね、魔法なの」

「そりゃそうだろ」

「違うの!そうじゃないの…魔法って、本当に魔が刺したような、毒々しいような、禍々しいような、そんな…」

何を言いたいのかよく分からないのは、本人も混乱してるからだろう。頭の中で、整理し切れてない言葉がボロボロこいつの口から零れていく。俺は受け皿を差し出すこともせずに、それを見ていた。
牛乳が、不味く感じた。

「なんか言われたのかよ」

「違うよ、違うの。皆、優しいの、でもね、でもね、私、優しいのが怖いのよ、苦手なの」

こいつの負の感情が、渦を巻いて、螺旋になっていくのを感じた。歪だけど、整ってるモノ。歪に繋がっていくモノ。
恐らく、恐怖。
月が、嗤う。

「私ね、試しにね、本当にゲームの気分だったのよ」

「綱吉にね、もう魔法は使わないって言ったの」

「嘘ではなかったの。でも本気でもなかった。だから、綱吉の直感じゃ見破れなかった筈なのよ」

「そうしたら綱吉は、綱吉はね、」



「もう魔法を使うことに疲れたなら、使わなくたっていいんだよ」


「でも、いつもみたいに俺の側にいてね」

「約束だよ?」


子供のように純粋で
奇怪音の様に壊れたような、
目で。




「気持ち悪いって、思ってしまったの」

頭を伏せたまま、女は笑った。
笑いながら、頭を抱えて泣く。涙がぽつりぽつりと、赤い屋根に染み込んでいくのを、綺麗に月が照らす。その様に中々の美しさを覚えた俺は、ただただ見ていた。
だが、一向に収まらないこいつの嗚咽があまりに酷く響き渡るのを聞き飽きたので、俺もそろそろ口を開くことにする。

「ツナヨシ、ねえ」

「綱吉は、私のことが好きなんだって。愛してるんだって。それって喜ぶべきことなんでしょう?」

「まあ、大抵の女は喜ぶんじゃね?ドン・ボンゴレの女になれるんだから」

「…そう、そうよね」

「ま、俺が女でも、そんなのは血反吐吐いてお断り。気色悪ぃ」

沢田、ツナヨシ。
十年前の因縁もあって、俺はあいつが嫌いだ。近づきたくもない。顔を見た日にゃアンラッキーデー。部屋に篭って寝るに限る。そんくらい、キライ。
でも、こいつはそうでもない筈だ。好きかは知らねえけど。少なくとも嫌ってはない筈だ。なんで気持ち悪いと。

「誰かに愛されるのは、怖い」

牛乳瓶を、月に翳して、中の飲み物を透かすようにジッと見ながら、女は呟いた。白濁から、何を見い出そうとしてるのか。
昔から、不可解な女だった。

「魔法を使う人はね、魔法が使えなきゃ意味ないのよ。価値がないの。なのに、なのに、綱吉は」

昔から、卑屈な女だった。
魔法なんて、大それたモンを使えるものだから、こいつは、魔法は、頼りにされてきた。愛でられてきた。
だが、分からなくなったんだろう。頼りにされてきたのも、愛されてきたのも、自分か、それとも人と異なる力か。もし、自分がいつか魔法をある日突然使えない女になったら。
誰も相手にしてくれなくなるのではないか。
自分を視界にすら写してくれなくなるのではないか。
孤独に怯えたのか。

「意味ないのに、魔法が使えない私なんて、生きてたって邪魔なのに」

「綱吉はそんな私が、」

気持ち悪い、と。
女は低く唸った。

「なら、使い続ければいんじゃね?魔法」

「え」

「お前、さっきから我儘過ぎじゃねえの?魔法を使わないって言ったのなんで?それでも許されたいから?それともまだゲーム?」

「ちが、ちがうよ」

「じゃあ前者じゃん。それをようやく見つけたってのに、肝心のお前がそんなんじゃ、例え百年生きても同じことの繰り返しじゃねえか」

そんなの安物のライフゲームだ。
チップは、でかくなきゃつまらねえ。出したチップを後でこっそり手に戻すのなんて、弱虫のすることだ。賭けたなら、赤か、黒か、後は待ってりゃいい。弱っちいお前は、チップを使い切ることなんて、到底できないだろうけど。

「でも、でも、」

「だー!うるせえな!耳の穴かっ開いてよーく聞けよ!」

女の薄い胸ぐらを、かき集める様に鷲塚んだ。顔を引き寄せる。
白い肌が涙でぐしゃぐしゃになってるのをよそ目に、眼前で吐いた言葉をお前はどう受け止めるのか。


「魔法を使うお前なんて嫌いなんだよ」


なんの取り柄もない、なにも叶えられないお前になれる日を。俺は。



魔女が溶けた日


もう、だいじょうぶだよ





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素晴らしく社長出勤すみませんでした。本当にすみませんでした。しかも、よく分からんものになりました。弱虫魔法少女をベル君が励ますお話でした。そうなったはずです。多分。
裸族も記念すべき五回目ですね、
あれ、五回目だっけ。←

相変わらず、変態集団で活動してます。みなさん、これからもシクヨロです。ていうか本当にすみませんでした。本当に(´;ω;`)

by ぱこ


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