8人のヒーローに守られているこの大都市シュテルンビルトに、ルナティックという名の、いわゆるダークヒーローが現れた。彼は犯罪者を捕まえるのではなく、粛清している。彼は言った。私達の唱える正義は弱く、そして脆いと。彼はその内にどんな覚悟を背負って自らが罪を犯す者となってまで犯罪者を粛清してゆく道を選んだのだろう。私が今まで信じてきた正義とは彼の言うように仮初めのものに過ぎなかったのだろうか。

「ユーリ、私はヒーロー失格だ。」

 私達がいくら犯罪者を捕まえても、その数は減ることがない。目を覆いたくなるような残虐な犯罪も数多くある。犯罪の意識を変えなければ、いくら犯罪者を捕まえても意味がない。ルナティックはそれをわかっている。そして覚悟を持って犯罪者を粛清している。
 毒をもって毒を制す。まさにそう言うことなのだろう。自らの内に毒を。

「私なんかより、ルナティックの方がヒーローに相応しいのかもしれない。」

 私は皆を助けたい。人を殺めたくはない。けれどルナティックは人を殺める覚悟を持って、人々を助けている。好き好んで殺人をするのはただの犯罪者だが、ルナティックは違う。彼はきっと苦しんでいる。

「キース、その様なことを言って…どこで誰が聞いているやもしれないのに。」
「すまない。でも…ユーリ、私は思うんだ。」

 いくら夜間パトロールを怠らなくとも、いくらヒーローが犯罪者を捕まえようとも、犯罪者の数は減りはしない。次々と新しい犯罪者が出てくるからだ。人々の意識を変えなければ、民衆から新たな犯罪者が出るのが止むことはないだろう。
 犠牲を払わなくては、何かを成し遂げるには、それ相応の対価を払わなくてはならないのだ。
 ルナティックはその対価を払っている。悪を憎む心を持ちながら自ら悪に堕ちた彼はその憎しみと苦しみと罪を対価に犯罪を無くそうとしている。
 身の内にある疑問をユーリへとぶつけた。彼も司法局に身を置く人間。このようなことを言われても戸惑うだけかもしれない。けれど、それでも、私はこの思いを吐露したかった。懺悔なのかもしれない。止めてほしいのかもしれない。私の心が、完全にルナティックへと傾く前に。

「…キース、貴方は本心からそう思いますか?そして…どんなことがあっても私を愛してくれますか?」
「ああ、私は…どんなことがあっても君を愛すると誓うよ。」

 本心からそう思うか、というユーリの問いには答えられなかった。答えてしまえば本当に、ルナティックこそが正義だと思ってしまいそうだった。

「告白しましょう。私の罪を…」

 ユーリは一つ深呼吸をすると、ゆっくりと口を開き語り出した。
 父がレジェンドであること、その父が能力減退のせいで荒れ、母や自分に暴力を振るうようになったこと、父の暴力から母を守る時にNEXTとしての能力が目覚め、そのせいで父を殺めてしまったこと、自分自身が、父が、そして犯罪者が許せないこと。…最後に、自分がルナティックであること。
 そのすべてを語り終わった時、ユーリは強く、真っ直ぐとした瞳で私を見つめていた。私もそれに応えるようにユーリを見つめた。ユーリがルナティック…その告白を聞いたとき、不思議と絶望も驚きもしなかった。それが答えなのかもしれない。私の心の中にある疑問の。

「ユーリ、怒らないで聞いてくれ。」

 ユーリは告白してくれた。今度は私がそれに応える番だ。ヒーローはいつでも、愛と正義のために生きた。ならば私も、そうあるべきだろう?

「私は君と共に歩むよ。」

 君が茨の道を歩むなら私は君を背負って、その道を歩こう。これ以上君が傷付かないように。私は君の盾に、そして矛にもなろう。私は君を守り、君のために戦う。

「だから私と共に死んでくれるかい…?」

 共に生まれることは叶わずとも、せめて死ぬ時は同年同月同日に。昔読んだどこかの国の英雄譚の中にあった台詞だ。

「馬鹿なんじゃ、ないですか…。」
「そんな私を好きになったのは君だ。」

 愛しい人、君のために私は生きよう。


 

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