「やはり、君は…ユーリ、だったのか…。」

 ああ、彼は気付いていたのか。諦観に似た何かが心の中で嵐になる。同時に耳をふさぎたくなる衝動を必死で抑えた。それでもやはり聴きたくはなかったのだ。彼のそんな絶望したような声を。
 橋を支える柱の上に立つ私と対峙するように宙に浮いているスカイハイ。
 割れた仮面から髪の毛がこぼれ落ちたが、そんなことにかまっていられるほどの余裕は最早私にはない。来ないで欲しかったと思う反面、来てくれて良かったとも思った。

「犯罪者の私にはうってつけの最期じゃないか。」

 この高さから水面に叩きつけられればさすがに死ぬだろうが、それだけではダメだ。犯罪者には相応しい最期を。自分の身体を燃やすように炎を出した。特殊なスーツに身を包んでいるからやや時間がかかるが、それでもほんの数分ほどで骨まで焼けるだろう。

「何をっ!止めるんだユーリ!」

 私へと伸ばしてきた手から逃れるように身体を少し傾ければ不安定な足場にいたせいで重力に従って簡単に落ちてゆく。

「ユーリ!!」

 身体の落下が止まったかと思えば、スカイハイに抱き締められていた。ぶすぶすと彼のヒーロースーツが焼ける音にぎょっとして、思わず炎を出すのを止める。

「何を、しているんですか…。」
「身体が勝手に動いてしまった。」

 何故助けたんだという意味を込めて言えば、きっと苦笑しているのであろう口調でそう返された。馬鹿な男だ。けれどその馬鹿な男がどうしようもなく愛しいのも事実で…。

「私を引き渡しなさい。罰を受けなければ。」
「これ以上君にどんな罰を与えればいいと言うんだ。」

 嫌だというふうに強く抱き締められる。いったいこの男は何をしているのだろう。彼は自分がヒーローであることを一番自覚しているはずだ。

「私は、君を助けることが出来なかった。罰を受けるなら私が受けよう。」

 何て馬鹿なんだろう。この男は。私は何て男を愛してしまったんだろう。そして愛されてしまったんだろう。
 彼は罪深い私には勿体無い、慈悲深いヒーローだ。彼が私のために罰を受けるなど、私には耐えられない。

「離して、ください…。」
「嫌だ。」

 ぐいと胸を押せばより強く抱き締められる。腕の力よりも、彼の言葉が、態度が、苦しくて私の胸を締め付ける。

「私は、罪人だ。裁かれなければ。」
「君が罪人だというなら私も罪人だ。私はただ傍観していただけだったから…。」

 顔を覆っていたマスクを外したキースが私の肩に顔を埋める。泣き出しそうな声。愛しくて、抱き締め返した。

「貴方、馬鹿なんじゃないですか。」
「君がそう言うなら、私はそうなんだろう。」

 彼は鼻声混じりに苦笑しながら言った。本当に、救いようのない馬鹿だ。けれど何故だろう、私の涙が止まらないのは。

「それでも私は君を助けるよ、ユーリ。例え世界を敵に回しても、私は君のヒーローで居たいから。」


 

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