最近、よく夜中に目が覚めるようになった。ユーリは眠っている。隣りにある体温が煩わしくて、ベッドから抜け出す。ロシアンティーでも飲んで気を落ち着けよう。ベッドに奴がいる限り、私は再びベッドには戻る気にはなれないが。

「ユーリ…?」

 ドアノブに手をかけた時、隣りで寝ていた男に声をかけられた。その声も、呼んだ名前も、私を苛立たせる。私はユーリではない。それにユーリは私のものだ。

「ユーリ?」

 黙っているとまたユーリの名を呼ばれた。

「違う。」
「、ルナティック…。」

 苛立ちを声に含ませて言えば、やっと私の名を呼んだが、その声のトーンがさっきより少しだけ下がったことにまた苛立った。

「ユーリでなくて残念だったな。」

 嘲笑うように言って、ドアノブを回した。早くこの部屋から出たい。この男とこれ以上会話をしたくないのだ。

「眠れないのかい?」

 再び声をかけられて、ドアから身体を半分出した状態で立ち止まる。

「うるさい。」
「身体に障る。寝よう。」

 背後から抱き締めるように身体をつかまれ、再びベッドへと連れ戻される。まるでいつもユーリにしているようなその行為に、さらに苛立ちは募る。
 この男に初めて会った時から、私はずっと苛立ちを覚えてきた。最近はそれがさらに酷い気がする。

「私はユーリではない!」

 突き飛ばすように胸を押せば、ユーリの時とは違いあっさりと離れる男の身体。息が詰まりそうなぐらいに、苦しい。

「わかっているよ。」

 困ったように笑うそれは周りの人間もよく知る顔。ユーリにだけ見せる顔とは違う。

「ならばユーリと同じように扱うな!」

 他人と同じような声色で優しく声をかけて、他人と同じような表情しか見せないくせに、ユーリだけにしかしない仕草をしてくる。気が狂いそうだ。私はユーリではない。私の名前はルナティックだ。

「君がユーリでなくとも、その身体はユーリの身体だ。ユーリの負担になるようなら、私は止めるし注意する。」
「私はユーリの恋人だから。」
「…!!」

 彼にとって私は本当にただのユーリと身体を共通しているだけの存在なのだ。本当に、苛立たしい。彼はユーリの恋人。私のことなど煩わしいとしか思っていないのだろう。私は身を焦がすような想いを抱いているというのに。
 同じ顔、同じ声、同じ身体を持っていても、彼は私のものにはなりはしないのだ。

「…私はリビングのソファーで寝るからゆっくりお休み、ルナティック。」

 私の出て行こうとしたドアから出て行ったキース。その後ろ姿に何故か涙が止まらなかった。
 ユーリはいつの間にか彼のものになっていて、彼はけして私に振り向きはしない。
 無性に海に沈んでしまいたくなった。空も、太陽も、月も、炎も使えない、何も見えない深海ならば、私の想いも見えないだろうから。



「キング・オブ・ヒーローなんて、よく言ったものだな。私はそのキングに、一番救われない想いを抱いているというのに。」


 

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