無色透明の空



感情が混ざり合ったような、それでいて ただ純粋に愛を歌うような、そんな色をした空に包まれながら、ただ無心に螺旋階段を下りていけば、真っ白な扉の前で見慣れた姿と再会した。


「……! 待ってたのか」

「お前一人では迷うのではないかと思ってな」


こちらの言葉に顔を上げた男は確かに水瓶座のデジェルで、自分と同じボロボロの聖衣(と言っても俺よりは全然マシだが)を纏っていた。


「ハッ、お前が寂しかっただけだろ」

「…そうかもしれないな」

「おいおい…、らしくねぇこと言うなよ」


冗談に挑発したつもりが、自嘲気味な笑顔で返される。

その瞳は、この真っ白で透明で鮮やかで蒼い空に何を映しているのだろうか。


「……お前は満足できたか、カルディア」

「俺? 俺はなーんも思い残すこと無いぜ。オリハルコンはユニティが聖域まで運んでくれるだろうし、翼竜と全力でやり合えて満足してる」

「そうか…」

「そういうお前はどうなんだよ、デジェル」

「私も思い残すことは無い、が、」

「が?」

「友人の、ユニティとの約束が果たせないのは、少し残念だな」

「約束、ねぇ…」

「あぁ、」

「ま、いいんじゃねーの。アイツなら一人でもなんとかできるだろ」

「そう思う…か?」


デジェルらしくない不安を泳がせた問いに、呆れて溜め息を漏らす。

ナーバスになるのも分かるが、死んでしまった自分達にはどうしようも出来ない。

なら、信じるしかないだろうに。


「それくらいの根性もない奴ならとっくに神殿内でくたばってると思うぜ」

「……それもそうだな。お前にしては気の利いたことが言えるじゃないか」

「お前にしては、ってのは余分だろ!」

「私は事実を述べただけだが」

「お前って死んでもそういう所、変わんねぇのな」

「それはお互い様だろう?」

「ははっ、それもそうか」


こうして友人と笑い合えるのもこれが最後かと思ったら、少しだけ胸が痛んだ。

心臓のもっと奥の方を握り締められるような感覚に息を詰まらせて。


「さて、そろそろ潔く行くか?」

「そうだな。こんな所で止まっていても、もう戻れるわけではない」

「お前は戻りたいか、デジェル?」

「いいや、これでいい」

「そうか」


満足そうに向けられた笑顔は今までで一番優しくて、自然と釣られて笑った。


「お前一人だと、いつ倒れるか分からんからな」

「ばーか、もう心配及ばねぇよ。来世は五体満足で存分に戦ってやる」

「お前はまた聖闘士として生まれたいのか」

「争いの無い世界があるならそれが一番だろうが、力を誇示できる世界なら、俺は同じように熱を求めて戦いたい。お前はどうなんだよ、デジェル」

「私も聖闘士としてまた生きられるなら、そうしたい」

「なら、来世でも腐れ縁ってわけだ」

「来世…か。そうだな、お前の面倒を見られる者など数少ないし、また私が付き合ってやろう」


もう一度、ばーか、とだけ返して、扉を押した。


無色透明の空
(透き通る硝子のようで艶やかな黄昏を映す空は、始まりと終わりを繋ぐ)




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