アンダンテ


自業自得だ、と言いながら柄で殴られた。
じんじんと痛む額を押さえながらしゃがみ込めば、若干の罪悪感に苛まれた目で俺を覗き込むシジフォス。
この男のこういう天然な所が、愛おしく思う。
それでは二の舞だと気付かないのか。

「す、すまないエルシド、大丈…んぅ…!?」

再度唇を重ねて舌を割り入れれば、ちゅくちゅくと水音がお互いの耳を犯していく。
時折びくりと跳ねる腰が、正直で可愛らしい。

「っふ、ぁ、や……ん、む…ッ」

また殴られるのは避けたいので、左手でシジフォスの右腕を掴む。
息を整えるため短いキスを挟んで角度を変えて深く浅く浸食すれば、観念したのか腕に籠もっていた力が緩まった。

「はぁっ、…っ、は、……ふ」
「…大丈夫か?」
「…っは、大…丈夫、だ、」

肩で息を整えるシジフォスを横目に、俺はテーブルに置き去りにされたフォンダンショコラに手を伸ばす。
人肌より少し温かいくらいの溶けた液体を指で掬い取って、シジフォスの唇の前に持って行けば、涙をしたためた目でこちらを見た。
誘っているのか、こいつは。

「何のつもり…だ」
「チョコレート消化に協力してやろうと思ってな」
「意味が分からな…いっ、」
「ほら、舐めないと零れる」

一瞬開いたそこに、二本の指を押し入れる。
抵抗しようとした左手が俺の右腕を掴むが、利き手の関係上引き抜くまでには至らなかった。

「ふ、抜い…」
「綺麗に出来たら、な」

抜くつもりなど毛頭無いと分かったらしく、熱を持った舌がゆっくりと指からチョコを舐め取っていく。
それに合わせて口腔内を愛撫すれば、逐一肩が痙攣したかのように震え、小さな喘ぎを漏らす。
余程恥ずかしいのか、ぎゅっと目を瞑ったのを合図に、目尻から涙が零れて頬を濡らした。
勿体無いので舌で拭ってやれば、大袈裟に肩が跳ねる。

「満更でもない、か?」
「な…にいっれ…」
「貴方のそういう、天然な割にマゾな所、好きなんだがな」

くつ、と喉を鳴らして笑えば、指を咬まれた。
反射的に指を引き抜いて、しまったと思った矢先、羞恥に震える目で睨まれる。

「俺は…っ、天然でも、マゾ…でも、ないッ」
「そうか、」

シジフォスの唾液で濡れた指を見せつけるように舐めると、一層紅くなった顔を背けられた。
この男が今まで独身だったのも、まともに恋愛経験がないのも、恐らくこの初さと天然さのせいだろう。
そうでなければ、この顔立ちと性格の良さで未経験など有り得ない。
所謂、魔法使いというやつだが、処女を奪われた魔法使いというのも可笑しな話だ。

そんなことを考えながら、再度チョコレートを掬い上げる。
若干ぬるくなってしまったが、それでも人肌程度には温かい。
今度は突っ込まれまいとシジフォスは口を紡ぐが、残念ながら狙いはそこではない。

「な…っ!!?」

ネクタイを外したカッターシャツの隙間から覗く白い肌に、指を這わせる。
指の軌跡に、艶やかなチョコレートがべとりと線を描いた。

「エルシド、何を…」
「言ったろう、協力してやると」
「食べ物で遊ぶの、は…ッ、くっ…、んんっ…!」
「ふ、甘いな」

指で描いた線をちろちろと舌先で拭えば、ビターとはいえ特有の甘さが鼻を掠める。
シジフォスが首から鎖骨にかけて弱いのを熟知した上で、チョコを塗っては舐め取れば、喉を反らせたまま何度も小さく跳ねた。

「ッあ、ん、…エル…シド……ッ」
「何だ、シジフォス」
「ひっ、ん…ッ、ゃ、めっ…!」

もう抵抗する気もないであろう右腕を解放し、空いた左手で膝をこじ開けて脚を割り入れる。
閉じられないようにしたそこに左手を這わせれば、熱を持った欲が頭を持ち上げていた。
ズボンの上から撫でただけでも、すぐに果ててしまうのではないかと思わせる程に膨らんだそこを解放してやろうと、ベルトに手を伸ばす。

「まっ、待てエルシド、明日も学校が…」
「あぁ、平日だからな」
「お…、おい! だから止めろと…!」

カチャカチャとベルトを弄る手をぴたりと止めて、シジフォスの目を見る。
そのまま膨らんだそこを指でなぞりながら意地悪く聞いてやった。

「それで? これはどうするんだ?」
「……っ、」
「一人で処理するか?」

悔しそうに唇を噛んで目を逸らすが、顎を掴んで無理やり視線を合わせる。
拒絶の意志を見せながらも、期待の色を含んだ瞳。
貴方の、そういう所が、狡い。



「ぁあッ、はっ、ん…エルシド…も、欲しい…っ」
「まだキツいだろう」
「そんな、こと…ッん、な、」
「もう少し我慢しろ」

冷たくなってしまったチョコで胸元を汚しながら、後孔に差し込んだ指をばらばらと動かす。
先端から零れた液を潤滑剤代わりに塗り、ゆるゆると抜き差しを繰り返しながら適度に感じる場所を抉ってやると、強い刺激にシジフォスは腰を浮かせた。
本当なら今すぐにでも最奥まで突っ込んでぐちゃぐちゃに掻き回して泣かせてやりたいくらいだが、そうはいかない。
何度目かになる行為とはいえ、しっかり慣らしておかないと辛いのはお互い様だ。
恋人の扇情的な姿に負けそうになる自制心を抑え、更に指を一本増やす。

「辛くないか、シジフォス」
「っは、あ、ああッ、える…苦し…!」
「…止めるか?」
「や、だ…っ、止め…ないで、くれ…ッ」

ごくり、と自分でも分かるくらいに喉が鳴った。
熱で浮かされた瞳でこちらを捉えて必死に訴える姿は、普段のストイックは彼からはとても想像できない。
こんなに淫らに溺れるシジフォスを見られるのは、俺だけでいい。
今日のために何日も前から案を練り、試行錯誤の上で勝負に臨んだ女子達には申し訳ないが、この男を譲ってやる気など毛頭無い。

「…ッん、はぁ…っ、ふ、エル…シド…?」
「あ、いや、すまない」

そんなことを考えて一瞬ちらりと冷蔵庫の方を見たら、指が止まってしまったらしい。
乱れた呼吸を整えながら、不安げな目でこちらを伺われ、慌ててキスで誤魔化す。
ちゅ、と短い音を立てて離し、そのまま胸元を堪能する。
そちらに意識を向かせながら指をずるりと引き抜き、自身を当てがった。

「…エルシド、」

ぐっ、と押し込む寸前、名前を呼ばれて留まった。

「どうした」
「っと…その、……怒ってる、か?」
「何故?」
「何だか、いつもと雰囲気が違う気がして、な…」

確かに多少不機嫌ではあったものの、いつも通りに振る舞ったつもりだったが、シジフォスの観察力はその上を行っていたらしい。
気を使わせてしまっていただろうかと、今更になって悔やむ。

「…ここまで送らせてしまって、挙げ句に夕飯作りや片付けまで…、何から何まで手間を掛けさせて……すまなかった…」

しゅん、とシジフォスの眉尻が下がる。
あぁ、本当に可愛い奴だ。
…なんて思ってる場合ではなく。
このド天然は俺の嫉妬による不機嫌さを別の理由と勘違いしているらしい。
本当なら毎日送り迎えしてやりたいし、どうせ一人暮らしの身なのだから夕飯作りくらい何の苦でもない。
つまり、そんなことはどうでもいいのだ。
それよりも、恋人がいるにも関わらず笑顔で大量の本命のチョコを受け取ることを、俺が何とも思っていない、と?
シジフォスの性格上、気持ちを込めたプレゼントを断ることなど出来ないことくらいは理解している。
だが、多少なりとも俺への気遣いがあって欲しいと思うのはエゴだろうか。

「…シジフォス」

一瞬、小さな子供のように肩が跳ねた。
別に叱責したいわけではないが、身構えられると出方に困る。
取りあえず中途半端にお預けを喰らった俺の聖剣はどうしてくれようか。

「大丈夫だ、もう気にしていない」
「本当…か…?」
「あぁ、」
「そうか、なら良かった…」

シジフォスが安堵の溜め息を漏らし気を緩ませた刹那、欲の塊を柔らかく解れた窄まりに突き立てた。

「ッ!……〜〜っ!」
「…っく、」

充分に慣らしたとはいえ流石に全部を一度に収めきるのは無理だったが、不意打ちの衝撃に声にならない叫びが上がった。
喉を仰け反らせてびくびくと震えるシジフォスの躯に小さな口付けを落としながら、落ち着くのを待ってやる。

「…はっ…あ、……ふ、んん…っ」
「落ち着いたか?」
「は…ぁ、……エルシド、やはりまだ怒って…っ」
「あぁ、別のことでな」
「別…?」
「…シジフォス先生はさぞかし女子生徒に愛されているようで」
「……ッ、」

痺れを切らして言ってしまったものの、恐らく今俺の顔は不機嫌さを露骨に物語っていて、嫉妬と恥ずかしさと虚しさでいっそ消えてしまいたい感情に駆られた。
それを悟られたくなくて、不躾に口付けて、そのまま腰を揺らす。

「んっ、ふ、…ぅんっ……ッ」
「…っは、女々しい、な」
「える…あっ、待…っ、や…あぁッ…!」

自嘲した声も、シジフォスの縋るような叫びに呑み込まれた。
ギリギリまで抜いて最奥を抉るように押し込めば、少しずつ根元まで飲み込まれていく。
チョコレートくらいなら容易に溶かせてしまいそうな熱に包まれ、ゆっくりと確実に絶頂へ向かっていく感覚。
甘く痺れるような刺激が心地良い。
動く度にぐちぐちと淫猥に響く水音と、抑えられない嬌声が鼓膜を侵蝕して熱を高ぶらせていく。
あぁ、出来るならこの羞恥な姿を見せてやりたい。
誰にって? 決まっているだろう、なぁ。

「っあ、も……むり、エルシド…!」
「あぁ、俺も、そろそろ限界だ…っ」
「んっ……ああッ!…っ、ん、あー…ッ!」
「…っく……、」

欲に任せて滅茶苦茶に突き上げて、どちらの熱か分からないくらい輪郭を溶かして掻き回せれば、シジフォスが一際甘い声で果てを迎え、その絶頂の収縮に誘われるように自らの熱を体内に吐き出した。
小刻みにきゅうきゅうと震える肛孔から性器をずるりと抜けば、名残惜しむようにひくりと引き吊り飲み込まれなかった精がどろどろと零れ落ちる。

「……はぁっ…は、…シジフォス、大丈夫か…?」
「ん…っ、は…ぁ、…あぁ、」
「…っ、…その、すまない…」
「謝らないでくれ……お前は何も悪くないよ、エルシド」

そう言って頬を撫でられた。
肩で荒い呼吸を繰り返し、熱に浮かされながらも、慈愛に満ちた笑みで俺を見据える。
あぁ、それだ。貴方のそれが俺を捕らえて離さないのだと、貴方はきっと気付いていないのだろう。

「……そうか、」
「だが…」
「…だが?」
「それでも申し訳無く思うのなら、明日の朝、責任を持ってお前が起こしてくれ」
「……あぁ、分かった」

返事を聞いて満足そうな笑顔を見せたシジフォスに触れるだけのキスをすれば、それを合図に意識を手放した。


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