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任務のたびに裏路地に消えていくその姿に気付いていた

地上の愛と平和の為に、我々は何を犠牲にすれば良いのだろう

いつか消え行く運命ならば、今だけでも満たされたいと思うのは、愚かなエゴだろうか



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霧の都と呼ばれるロンドンの市街地で通り魔事件が多発しているとの情報を得て、我々が派遣された。

その名の通り、日没と同時にうっすらと出てきた霧が街並みを怪しく染める。

確かに、これなら通り魔には打って付けだ。


「如何にも、って雰囲気出てきたんじゃねぇの?」

「……そうだな」


私一人で充分な任務だと思ったのだが、教皇の意向で蠍座のカルディアも同行することとなった。

私が話し掛けた時は怪訝な顔付きだった娼婦達がカルディアにはすんなりと近付いてくれる所を見ると、ここでは奴の方が幾分か有利なことが伺える。

そこから得た情報で、一番被害者が多い通りの側で犯人を待ち構えることにした。


「で、どうするんだ?」

「犯人を生け捕りにして警察に引き渡す。今回の任務はそれだけだ」

「聖闘士を派遣させた割には随分楽な仕事だな。この街の警官が無能すぎるだけじゃないか?」

「カルディア、お前――」


「きゃああああっ!!!!」


口の悪さを咎めようとしたと同時に、遠くない場所で悲鳴が上がった。


「デジェル!」

「あぁ、」



* * * * *



カルディアの言った通り、任務自体は簡単なものだった。

切り付けられた娼婦を私が落ち着かせる間に、カルディアのスカーレットニードルが犯人に突き刺さり、耳障りな悲鳴が霧の街に事件の終わりを告げた。


「なんだ、本当に呆気なく終わったな」

「できれば被害者が出る前に捕まえたかったが、な」

「ま、命があっただけでも良かったんじゃないか」


背中を向けて歩き出したカルディアが、物足りないといった表情で溜め息を吐いたのが見えた。


「おいデジェル、聖域に帰るのは明日か?」

「あぁ、今日はもう遅いからな。明日の朝に発とう」

「……りょーかい」


そう言ってカルディアはひらひらと片手を振り、路地裏に姿を消してしまった。


* * * * *



蝋燭の火を頼りに教皇宛ての書簡を記していると、遠慮がちな音で扉が開かれた。


「なんだ、まだ起きてたのか」

「あぁ、眠れなくてな」


書簡に目を向けたまま答えると、カルディアは聖衣の入った箱を床に置きベッドに身を預けた。

安い作りのベッドが大人ひとり分の体重を受け止め小さな呻きを上げる。


「通り魔は捕まえたんだ。いつまでも気負ってちゃ身が持たないぜ、生真面目な聖闘士さん」

「……生真面目、か」


別段急ぎで書簡を仕上げたかった訳でもなく、単に眠れない時間潰しにと思い筆を進めていただけなのだが、この男からしたら仕事熱心に見えたのだろう。

生憎、私にはお前のような遊び方は出来ないから、な。


「そういうカルディア、お前はこんな遅くまで何処に居たんだ」

「別に。酒場で飲んでただけだぜ?」


それが嘘だと知っていながらも、そうか、とだけ返す。

カルディアと任務に就くのはこれが初めてではないし、そういう噂を何度か耳にしたこともあった。


「何処に居ようと勝手だが、聖闘士だという自覚をもう少し持ったらどうだ」


独り言のように発した何気ない一言が、どうやら気に障ったらしい。

攻撃的な小宇宙が火花のように肌をチリチリと刺激する。


「……カルディア?」


すぐ背後に移動した気配に振り向けば、不機嫌さを露わにした顔で机との間に閉じ込められた。

逃げ場が無くなりその目を覗けば、子供のような瞳が揺れている。


「聖域に居れば黄金として。任務に出れば聖闘士として。…だったら!俺のこの寂しい気持ちは何処にぶつけりゃいいんだよ!」


勢い任せに吐き出された問いに答えられる言葉は持ち合わせておらず、黙って息を呑んだ。

カルディアが生き急ぐ理由も、熱を求める理由も知っている。

だからと言ってその行いを正当化できる訳ではない、が。


「それとも、お前が相手してくれるって言うのか?」


返ってくる答えなんて決まりきっていると言わんばかりの挑発的な顔で嗤ってみせた。

――馬鹿げた交渉だ。


「はっ、冗談だ。本気にするなよ、生真面目な黄金さん」


背を向けたその腕を掴んで、引き留める。


「……何のつもりだ?」

「その挑発に乗ってやろうと思ってな」

「へぇ…、後悔するなよ?」


返事の代わりに、その唇を塞いでベッドに押し倒した。





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